差別に苦しんだハンセン病元患者の家族に、ようやく被害回復の扉が開かれた。安倍晋三首相は9日、隔離政策による被害を巡り国への損害賠償を命じた熊本地裁判決を受け入れ、控訴しない意向を表明した。社会の冷たい視線。断ち切られた肉親との絆…。苦悩の日々を過ごした人たちは朗報に「肩の荷が下りた」。政府は首相の政治決断を強調するが、直接の謝罪や救済策の検討はこれから。当事者に寄り添う姿勢が問われる。 

「首相には謝罪してほしい」と訴える宮城賢蔵さん=9日午後、沖縄市

 「何十年と背負ってきた肩の荷がやっと下りた」。原告の宮城賢蔵さん(71)=東村=は9日朝、沖縄市にある妻の実家で控訴断念をニュースで知り、喜びをかみしめた。安倍首相の政治決断が参院選対策との見方があることを挙げ「国はしっかりと謝罪し、国民は差別に加担してきた歴史を振り返ってほしい」と差別解消を強く願った。

 幼少期から激しい偏見の目を向けられた。友人、教師、役場の職員-。加担した人は数知れない。自宅も焼かれた。「賠償金が出ても、受けた苦しみが癒えるわけではない」と語気を強める。

 熊本地裁の本人尋問では、受けた差別を詳細に聞こうとする国側代理人に向かって「自分の痛みがあなたに分かるか」と叫んだ。

 つらかったという訴訟で支えとなったのは、元患者で90代の母の「道芝のごとく、踏まれても踏まれても強く生きていけ」という言葉だった。だが、メディアの取材に実名で応じ、講演会で体験を話すと、親族から冷たい目で見られ、母と衝突したこともあった。「そもそも国の間違った施策や法律がなければ、母とけんかをすることもなく、裁判もなかった」

 これまで、子どもや孫たちに自らの経験をなかなか話せなかったという宮城さん。「これで家族みんなにいい報告ができる」と表情を緩めた。(中部報道部・豊島鉄博)