2019年ノーベル賞予想、候補者について

 物理学、化学、生理学・医学、文学、平和および経済学で顕著な功績を残した人物に贈られるノーベル賞。日本人で2019年の医学・生理学賞の有力な候補者とされるのは、バイオインフォマティクス(生物情報科学)研究の第一人者の金久実・京都大学特任教授ら。物理学賞には電気と磁石の性質をあわせ持つ「マルチフェロイック物質」を開発した十倉好紀・東京大教授(理化学研究所・創発物性科学研究センター長)らの名前が挙がる。化学賞では、分子が自発的に集まり、自然に秩序ある系が組み上がる「自己組織化」を研究した藤田誠・東大教授ら、まだ日本人の受賞がない経済学賞では、清滝信宏・プリンストン大教授が取りざたされている。文学賞候補としては、小説家の村上春樹さんが毎年のように名前が挙がる。18年の医学生理学賞を受賞したのは、本庶佑(ほんじょ・たすく)京都大特別教授(76)。体内で異物を攻撃する免疫反応にブレーキをかけるタンパク質を突き止め、がんの免疫治療薬開発に道を開いた。中間子の存在を予想した湯川秀樹が1949年に日本人初のノーベル賞となる物理学賞を受賞して以降、昨年の本庶氏まで日本人は計26人が選ばれた。内訳は物理学賞が11人、化学賞が7人、生理学・医学賞が5人、文学賞が2人、平和賞1人となっている。

ノーベル賞とは

 ノーベル賞は、ダイナマイトの発明者として知られるアルフレッド・ノーベルの遺言に従って1901年から始まった世界的な賞。物理学、化学、生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野+1分野」で顕著な功績を残した人物に贈られる。授賞式は、ノーベルの命日である12月10日に、「平和賞」を除く5部門はストックホルム(スウェーデン)のコンサートホール、「平和賞」はオスロ(ノルウェー)の市庁舎で行われ、受賞者には賞金の小切手、賞状、メダルがそれぞれ贈られる。

2019年のノーベル賞、発表日程について

 スウェーデンのノーベル財団によると、2019年の医学生理学賞の発表日は10月1日、物理学賞は2日、化学賞は3日。平和賞は5日、経済学賞は8日。選考するスウェーデン・アカデミーが関係者の性的暴行疑惑などを理由に昨年の発表を見送った文学賞の発表日は未定で、昨年分と併せて発表する。

ノーベル賞の受賞メダルを手に歓談する仲井真知事(右)=当時=とウォーレン博士=2009年2月、沖縄県庁

2019年のノーベル賞候補者について

ノーベル医学・生理学賞の有力な候補者は、バイオインフォマティクス(生物情報科学)研究の第一人者の金久実・京都大学特任教授。2018年に学術論文の引用データ分析から、ノーベル賞クラスと目される研究者を選出する「クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞」を受賞した。金久氏は世界で発表された科学論文の結果などのデータを集めて統合。ヒトや微生物などの生体内で、タンパク質や遺伝子がどう関わっているのかという相関関係を図示した「KEGG」と呼ばれるデータベースを1995年に開発した。生物の体内で行われる代謝などの化学反応と遺伝子の関係といった複雑な仕組みを示す情報が盛り込まれたため、世界中で使われるようになった。

 医学の分野で顕著な発見や功績を残した研究者に贈られる「ガードナー国際賞」を2015年に受賞した坂口志文・大阪大栄誉教授は、免疫が過剰に働くのを抑える「制御性T細胞」を発見。花粉症治療法として注目を集める「舌下免疫療法」とも関係し、研究が進めばアレルギーの予防・治療が可能になると評価されている。

 14年にノーベル賞の登竜門といわれる米国の「ラスカー賞」を受賞している森和俊・京都大教授は、細胞内のタンパク質の品質管理を担う「小胞体ストレス応答」という現象の仕組みを解明し、がんやパーキンソン病の治療につながった。

 遠藤章・東京農工大特別栄誉教授は、血中コレステロール値を下げる物質「スタチン」を発見し、世界中で約4000万人が使っているという動脈硬化の治療薬の開発に結びついた。

 このほか、エイズが世界で「不治の病」とされていた1985年に米国で世界初の治療薬「AZT」を開発した満屋裕明・熊本大学大学院教授らの名前も挙がっている。

 物理学賞の候補者として有力なのは十倉好紀・東京大教授(理化学研究所・創発物性科学研究センター長)。電気と磁石の性質をあわせ持つ「マルチフェロイック物質」を開発。磁気記憶媒体の省エネ性能を飛躍的に上げる可能性のある物質を研究し、メモリーデバイスへの応用が期待されている。

 細野秀雄・東京工業大教授は、鉄が超電導との相性が悪いという常識を覆し、鉄化合物系の高温超電導物質を発見した。ディスプレイに使われているIGZO半導体など、画期的な新素材を次々に生み出しており、受賞に最も近い科学者の一人とされる。透明な酸化物から半導体をつくることに成功。アンモニアを効率よく合成する新たな触媒物質も発見した。

 大同特殊鋼顧問・佐川真人氏は、世界最強と言われる磁石「ネオジム磁石」を開発した。この磁石の効果で産業用ロボットが油圧から電動に切り替わった。ハードディスクの読み出し装置や電気自動車、風力発電にも幅広く応用され、世界中の産業を支えている。

 香取秀俊・東京大教授は、160億年で1秒しかずれない超高精度の原子時計「光格子時計」を発明した。「重力の大きさによって時間の進む速さが変わる」というアインシュタインの相対性理論の検証が可能になったほか、重力の大きさを測る「超高感度センサー」として、さまざまな観測への応用も期待されている。

 このほか、電気抵抗の特殊な現象を理論的に解明した近藤淳・産業技術総合研究所名誉フェローや、量子コンピューターの基礎技術を開発した古沢明・東大教授らの名前も挙がっている。

 化学賞の候補者として有力な藤田誠・東大教授は、誰に命じられたわけでもないのに、分子が自発的に集まり、自然に秩序ある系が組み上がる「自己組織化」を研究。配位子と呼ばれる化合物によって組み上がったネットワークを利用した、画期的な分析技術を編み出した。分析が難しかった化合物でも、この方法ではごく微量で詳しい構造が割り出せるようになり、医薬品開発や健康診断、科学捜査などが大きく進歩するとされる。

 北川進・京大特別教授は、金属イオンと有機分子で無数の微細な穴を持ち、特定のガスを出し入れする材料を開発した。

 吉野彰・旭化成名誉フェローは、ノートパソコンやスマートフォンなどのバッテリーとして現在の日常生活に欠かせないリチウムイオン電池の開発に貢献した。

 藤嶋昭・東京理科大栄誉教授は、抗菌や汚れ防止に役立つ「光触媒」の反応を発見し、建物の外壁や自動車のミラーなどに応用されている。

 このほか、触媒の研究に取り組み、目的の物質を効率的に取り出せる「分子性酸触媒」を開発した山本尚・中部大学教授や、工業や医療に役立つ高分子材料の精密な合成に関する研究した澤本光男・中部大教授、植物の光合成を担うタンパク質の構造を解明した。神谷信夫・大阪市立大教授と沈建仁・岡山大教授らも挙がる。

 日本人が唯一受賞していない経済学賞の候補とされるのは清滝信宏・プリンストン大教授。土地や住宅など資産価格の下落が不況を長期化させる仕組みを「清滝・ムーアモデル」で解説した。

 文学賞候補として毎年のように名前が挙がるのは、小説家の村上春樹さん。著作は世界中で愛されており、40以上の言語で翻訳されている。2000年代からは有力候補と目されている。

村上春樹氏

2018年の結果 

 2018年のノーベル医学生理学賞を受賞したのは、体内で異物を攻撃する免疫反応にブレーキをかけるタンパク質を突き止め、がんの免疫治療薬開発に道を開いた本庶佑(ほんじょ・たすく)京都大特別教授(76)。日本人のノーベル賞受賞は2年ぶり、26人目。授賞理由は「免疫反応のブレーキを解除することによるがん治療法の発見」。同研究所は「世界で年に何百万人もの命を奪うがんとの闘いで、本庶氏の発見に基づく治療法が著しく効果的だと示された」と評価した。発見はその後、免疫治療薬「オプジーボ」として実用化された。免疫の力を強め、がんと闘う「がん免疫療法」の時代を切り開いた日本発の成果が最高の栄誉に輝いた。本庶氏は記者会見で「大変名誉なこと。重い病気から回復し『元気になったのは、あなたのおかげ』と言われると、本当に研究としては意味があったと思う」と述べた。

 本庶氏の研究チームは1992年、異物を攻撃する免疫細胞の表面でブレーキ役として働くタンパク質「PD1」を発見した。がん細胞がPD1と結合し、免疫細胞の攻撃にブレーキをかけるのを阻止すれば、がんの排除が可能になる。この原理に基づき、本庶氏らが小野薬品工業(大阪市)と開発したオプジーボは免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれ、2014年に皮膚がんの薬として発売され、肺、腎臓、胃などのがんへ対象を拡大。同様の仕組みを利用した創薬も相次いでいる。一部の患者は長期間の生存が可能になったが、医療財政を圧迫する超高額な薬としても話題になった。

 医学を志したのは「多くの人の役に立ちたかったから」。生まれは京都市。父親の仕事の関係で少年時代を山口県宇部市で過ごした。外交官、弁護士、医師、何になるか悩んだ末、京大医学部と大学院に進学。大学時代に同級生が胃がんで亡くなり「いつかはがんの問題に関われたら良い」と考えるようになった。1971年に渡米し、カーネギー研究所発生学部門の研究員に。最先端の遺伝子研究に携わり、出会った研究者の影響を受け免疫学を選んだ。米国立衛生研究所や東京大医学部助手を経て、79年に37歳の若さで大阪大の教授になり世間の注目を集め、84年に京大に戻ってきた。

 92年、本庶さんの研究室の一員だった石田靖雅さん(57)=現・奈良先端科学技術大学院大准教授=が免疫反応の中での細胞死に関与する物質を探す中で、タンパク質「PD1」を発見した。「どんな機能を持っているのかも不明だった」後に、抗体に詳しい湊長博さん(67)=現・京大副学長=が研究に加わり、動物実験などで、がん治療に効果があることが判明した。製剤化は難航。「がんを免疫で治療できるなんて、みんなうそだと思っていた」。逆風の中、製薬会社へのアピールに全力を尽くした。2006年、PD1に作用し、免疫細胞にがんを攻撃させる薬の臨床試験が始まり、成果が出たと報告があった。「非常にうれしかった」と本庶さんは振り返る。14年に新薬「オプジーボ」として承認、発売された。

 皮膚がんの一種、悪性黒色腫など一部の治療に使われているが、さまざまながんに効くと報告があり、使用範囲を広める準備が進められている。がん治療には手術、放射線療法、化学療法が知られていたが、免疫療法という4本目の新しい柱を築いたと評価される。

 2017年には京都大の特別教授に。静岡県立大や神戸市の先端医療振興財団の理事長を歴任し、免疫反応で多様な抗体が作られる仕組み「クラススイッチ」の発見もノーベル賞級の成果とされる。

記事紹介:社説[本庶氏にノーベル賞]「がん免疫療法」が評価 | 社説 | 沖縄タイムス+プラス

記事紹介:平和賞「重い責任を理解」/ノーベル賞ムラドさん 活動継続を強調 | 沖縄タイムス紙面掲載記事 | 沖縄タイムス+プラス

記事紹介:村上さん 最終候補に/ノーベル賞代わり文学賞 | 沖縄タイムス紙面掲載記事 | 沖縄タイムス+プラス

日本の歴代ノーベル賞受賞者と海外の主な受賞者について

 1949年には、原子核内に未知の新粒子「中間子」が存在すると予想した湯川秀樹が日本人初のノーベル賞となる物理学賞を受賞した。65年には量子電気力学分野での「くりこみ理論」を完成させた朝永振一郎が同賞に。68年には川端康成が文学賞を受賞した。「伊豆の踊子」「雪国」など、日本人の心情の本質を描いた繊細な表現による卓越な叙述が評価された。73年には半導体のトンネル効果を発見した江崎玲於奈が物理学賞に、74年には非核三原則を提唱した佐藤栄作が平和賞に選ばれた。81年に化学賞を受賞したのは福井謙一。量子力学を化学に適用、分子の中で外側を回る「フロンティア電子」の化学反応への寄与を明らかにした。87年には免疫反応を担う複雑なリンパ球の性質を、遺伝子工学の技術で解明した利根川進が生理学・医学賞に。

大江健三郎氏

 94年には大江健三郎が文学賞を受賞した。「個人的な体験」「万延元年のフットボール」など、詩的な言語を用いて現実と神話の混交する世界を創造し、窮地にある現代人の姿を、見る者を当惑させる絵図に描いた功績が評価された。

 2000年には白川英樹が化学賞に。金属と異なり電気を通さないとされてきたプラスチックに、ある変更を加えると導電性になることを発見。電気を伝える高分子を開発した。01年には野依良治も同賞を受賞。自然界にある「右型」と「左型」の分子の一方だけをつくる「不斉合成」の方法を確立し、医薬品や香料の工業生産に貢献した。02年には田中耕一も化学賞に選ばれた。生体内で重要な働きをするタンパク質分子の大きさや構造を調べる技術を開発。生命科学分野の進歩に貢献した。同年には小柴昌俊が物理学賞に。観測装置「カミオカンデ」が、大マゼラン星雲の超新星爆発で発生した素粒子ニュートリノの検出に世界で初めて成功し、天文学を開拓した。

高校生たちの質問に答える益川敏英さん=2013年5月、浦添市てだこホール

 08年には南部陽一郎(米国籍)と小林誠、益川敏英が素粒子物理の「標準理論」と呼ばれる理論体系構築に重要な貢献をしたとして物理学賞に選ばれた。 同年には下村脩が化学賞に。紫外光を当てると、その光を吸収して緑色に輝きだし、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見した。飛躍的に発展する生命科学の研究に不可欠な「道具」となっている。

講演するノーベル賞受賞者の根岸英一さん=2017年2月、西原町・さわふじ未来ホール

 10年には製薬や電子産業などの幅広い分野で使われる有機化合物の合成技術を開発した根岸英一、鈴木章が化学賞に選ばれた。両氏は金属のパラジウムを触媒に使って結合させ、化合物を簡単に作る方法「クロスカップリング」をそれぞれ開発。有機化学の発展に貢献した。12年には様々な細胞に成長できる能力を持つiPS細胞を作製した山中伸弥が生理学・医学賞を受賞した。iPS細胞は生命科学研究の一大潮流をつくり、再生医療や創薬への利用も期待される画期的な成果となった。14年には、省エネで長寿命の照明に使われる青色の発光ダイオード(LED)を開発した赤崎勇、天野浩、中村修二(国籍は日本ではない)が物理学賞に選ばれた。15年には重さがないと考えられていた素粒子「ニュートリノ」に質量があることを見つけた梶田隆章が同賞に。

「困難にぶつかった時、乗り越えるのが本当の研究」と語る大村智・北里大特別栄誉教授=2016年11月、沖縄県庁

 同年には糞(ふん)線虫症やアフリカなどで寄生虫が引き起こす熱帯感染症に大きな治療効果を挙げた特効薬を開発した大村智が生理学・医学賞を受賞。16年には細胞が自分のタンパク質を分解してリサイクルする「オートファジー(自食作用)」と呼ばれる仕組みを解明した大隅良典が生理学・医学賞に選ばれた。17年にはカズオ・イシグロ(国籍は日本ではない)が文学賞を受賞。偉大な感性を持った小説によって、世界とつながっているという幻想に潜んだ深淵(しんえん)を明らかにした。

ノーベル賞受賞者ビードル氏が那覇高で講演=2007年10月、那覇市

記事紹介:科学と社会の関係語る/ノーベル賞梶田さんら講演 | 沖縄タイムス紙面掲載記事 | 沖縄タイムス+プラス

記事紹介:ノーベル賞の益川敏英教授が退職 京都産業大、2008年物理学賞 | 共同通信 ニュース | 沖縄タイムス+プラス

まとめ

 2019年の日本人ノーベル賞候補は、医学・生理学賞に金久実・京都大学特任教授、物理学賞に十倉好紀・東京大教授らが挙がっている。18年にはがんの免疫治療薬開発に道を開いた本庶佑・京都大特別教授が医学・生理学賞を受賞した。1949年に日本人初のノーベル賞となる物理学賞を受賞して以降、昨年の本庶氏まで日本人は計26人が選ばれた。