見る者を圧倒する大作が真っ先に目に飛び込んできた。壁一面にぎっしり並ぶ漢字。その数3千字。すべての文字が調和を保ち、整然とした様式美を引き立たせている

▼石垣市出身の書家、豊平峰雲さん(77)が喜寿を記念し、自身20回目にして初めて東京で開いた個展。内覧会への招待を受けた時から、大作「千字文」を鑑賞できるのが楽しみだった

▼高さ2・4メートル、幅75センチ。一つたりとも重複しない1千字は、6世紀の中国で梁の周興嗣が武帝の命により選んだ。1字も重ならない点でいえば、日本の「いろは」のような類いか。250の四字熟語から成る韻文は、国の歴史や人々の暮らし、人生訓をうたい、習字の手本として世に広まった

▼それを豊平さんは約7時間かけて一気に仕上げる。しかも楷書、行書、草書の三つの書体を3日連続で。その体力と精神力に恐れ入る

▼35歳で沖展賞を取った時の出品作も「千字文」だった。「うまく書けるか不安だったけど、やってみたら今の方がいいよ」。個展に向けて書の原点に立ち返る意味もあった

▼初めての個展を那覇市内で開いたのが42歳。当時の沖縄タイムス紙面にこうある。「これまでは良い字を書くことに努めたが、これからは自由に自分の心象を筆に託したい」。書は体を表す。よどみない美しさは、心の映し鏡だった。(西江昭吾)