日本アニメの「聖地」を炎がのみこんだ事件から28日で10日がたった。

 衝撃は今なお収まらず、焼け焦げた建物には全国各地から花を手向ける人が絶えない。供えられた色紙には英文のメッセージもあり、祈りは国境を越え広がっている。

 京都市のアニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオで男がガソリンをまいて火をつけた事件では、従業員ら35人の命が奪われた。平成以降で最悪の犠牲者を出した放火事件である。

 なぜ何の落ち度もない将来ある人たちがと思うと、気持ちの持って行き場がない。怒りと悲しみと悔しさがこみ上げてくる。

 「京アニ」の愛称で親しまれる同社は、テレビアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」などのヒット作を次々と世に送り出し、映画「聲(こえ)の形」など劇場公開作品も手掛けてきた。

 若者の日常生活のリアルな描写、実写のような美しい背景といった作画技術で知られ、人気や独創性ではアニメ界屈指とされる。地方を舞台にした作品も多く、ゆかりの場所を訪ねる「聖地巡礼」ブームも巻き起こした。

 それだけに、いてもたってもいられないと多くのファンが現場を訪れている。

 「あなたの作品に救われた」「悲しいときいつも元気づけてくれた」。寄せられたメッセージには、胸にしまっておいた思いを告げるような言葉が並ぶ。

 人生の節目節目で京アニに励まされ、勇気をもらったという人の何と多いことか。

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 アニメは外国人にも人気の高い日本文化の一つだ。

 事件後、米アップルのティム・クック最高経営責任者は「世界で最も才能あるアニメーターらが集まる場所の一つ」と追悼の意を表した。ツイッターには、英語のほか中国語や韓国語などによる祈りの投稿が相次いでいる。

 「支えになれたら」との動きは募金活動にも広がっている。京アニが24日に開設した支援金受付口座には、2日間で約6億2千万円の振り込みがあった。米アニメ配給会社がネットのクラウドファンディングで募っている寄付金も、28日までに約2億5千万円に達した。

 スタジオが壊滅的な被害に遭い、多くの才能が失われた今、再出発には相当の時間が必要だろう。しかしそれでも残された作品はファンの心の中で生き続ける。そして希望を与える「アニメの力」を信じ未来の作品を待ちたい。

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 容疑者の男は今も入院中で動機は謎のままである。一方的に恨みを抱いた疑いがあるというが、京アニとの直接の接点は確認されていない。

 男が近隣住民とトラブルを起こしたことや生活が困窮していたことなどが報じられている。周囲とのつながりも希薄だったようだ。

 同様の事件を防ぐためにも、背景を含めた全容解明を急いでもらいたい。

 事件はガソリンが大量殺傷をもたらす凶器になり得ることも突き付けた。

 購入に際しての身元確認や登録制度の導入など対策の検討は急務である。