生まれた子どもの出生届を親が出さず戸籍に記載されない無戸籍者の解消に向け、有識者らでつくる法務省の研究会は離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子とする民法の「嫡出推定」の見直し案を公表した。

 離婚して300日以内に生まれた子について、出生時に母親が前夫以外の男性と再婚していた場合などは前夫の子とみなさない案である。

 父親が重複する期間がなくなるため、女性の100日間の再婚禁止期間は不要になるとした。

 嫡出推定は、生まれた子の法律上の父親を早く確定させ、子の利益を図るために設けられた。現行法は、女性が婚姻中や離婚後300日以内に生まれた子は実際の父親が別でも、戸籍上は夫や前夫の子と記載される。

 そのため、家庭内暴力などから逃れた女性が別の男性との間に子をもうけた場合、夫もしくは前夫が法律上の父親になることを避けるため、出生届を出さないケースが相次ぎ、子が無戸籍者になる主要因になっている。

 6月時点で、無戸籍者は830人。約8割は嫡出推定が原因とされる。だが、総数はもっと多いとみられる。

 公的存在が認知されないことで住民票がつくれずに健康保険や年金、生活保護などの社会保障が受けられない。銀行口座の開設や住宅の賃借もできず、旅券も取得できない。進学や就職、結婚などさまざまな面で社会的に多大な不利益を強いられる。個人の尊厳にかかわる重大な問題だ。これ以上の放置は許されない。民法改正で抜本的な解決が求められる。

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 現行法は、「自分の子ではない」と父子関係を否定する「嫡出否認」の申し立ては夫や前夫にしか認めていない。別居や再婚の理由が家庭内暴力などの場合、女性が夫に申し立てるよう頼むことは極めて困難で、現実的ではない。嫡出否認の規定が無戸籍状態の解消を困難にする要因になっている。

 夫のみに嫡出否認を認めた規定が男女同権を定めた憲法に違反していると争われた裁判で、大阪高裁は「一定の合理性がある」として合憲と認めた一方で、「伝統や国民感情を踏まえ立法裁量に委ねられるべきだ」と指摘した。

 研究会は嫡出否認を子や母も申し立てることができるよう拡大する案を提示している。申し立ての機会が得られれば、多くの無戸籍者が救済されるに違いない。

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 暴力をふるう夫から逃れたり別居し、離婚前にほかの男性との間に子どもが生まれる場合、研究会案のように改めても嫡出推定と実際の父親が違う場合は起こり得る。 

 だが、DNA検査で父子判定は簡易にできるようになった。嫡出推定のルール自体の合理性に疑問が湧く。子の利益を図るために不可欠な理由を明確にし、撤廃を含めた踏み込んだ議論が必要だ。

 家族や親子を巡る民法規定の多くは明治時代に定められた。社会や家族の在り方の変化で時代に合わなければ見直すのは当然だ。子の権利を守る観点で法を改正すべきだ。