核兵器禁止条約が国連で採択され、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)がノーベル平和賞を受賞してから2年しかたっていないというのに、歴史の歯車は逆回転し始めている。

 今月2日、冷戦後の核軍縮の支柱となった米ロの「中距離核戦力(INF)廃棄条約」が失効した。1988年に発効し、地上配備の中・短距離ミサイルの全廃を定め、冷戦を終結に導いた条約である。

 ロシアの条約違反を理由に破棄を通告した米国と、違反を否定するロシアとの対立が解けないまま、30年来の歯止めが失われてしまった。憂慮すべき事態だ。

 極東の安全保障を巡っては、米ロの相互不信に、条約の枠外でミサイル開発を押し進める中国が加わり、軍拡競争が一気に激化する恐れもある。

 米国では、条約失効を中国への反転攻勢の好機と捉える見方も強い。対中国の最前線として米領グアムや日本などへの新たなミサイル配備もささやかれており、米軍基地が集中する沖縄への影響が懸念される。

 INF失効の一方で、トランプ米政権は昨年公表した核戦略文書「核体制の見直し(NPR)」を土台に、戦闘中の限定的な核兵器使用を想定した新指針をまとめている。

 NPRは「使える核」とも称される低爆発力の小型核の導入を明記する。通常戦力の延長線上への核戦力位置付けは、核のハードルを大きく下げる危うさをはらんでいる。

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 核兵器禁止条約は、核兵器を非合法化した初めての国際条約で、その前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と記されている。

 しかし唯一の戦争被爆国である日本は、核保有国が反対している条約は現実的でないとし、会議にも参加せず、署名も拒み続けている。

 米国のオバマ前大統領が在任中に「核の先制不使用」を検討した際、「核の傘」に依存する日本などが反対し議論が立ち消えになったことが明かされている。

 日本は核保有国と非保有国の間の「橋渡し役」を自任しているが、禁止条約にも加わらず、核軍縮では自らブレーキを踏み、トランプ政権の核政策に異を唱えることもしない。

 これで被爆国としての役割を果たしているといえるのか。

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 広島はきょう6日、長崎は9日、原爆投下から74年の「原爆の日」を迎える。

 今年3月末で被爆者健康手帳を持つ被爆者は14万5844人。平均年齢は82歳を超える。

 核は根深い「抑止力信仰」の中に生きている。「核なき世界」は途方もない難事業だが、ほぼ瞬時に約20万人もの命を奪った人類史未曾有の惨禍を風化させてはならない。

 核戦争の脅威などを示す「終末時計」は残り2分と、冷戦期以来最悪の状態が続いている。私たちには「核兵器の非人道性」を世界に発信していく責任と義務がある。