茨城県の山間部にある精神科病院で、医療とアートの融合を試みる現代美術家がいる。那覇市出身の上原耕生(こうお)さん(37)だ。袋田病院のデイケア「アトリエホロス」に勤務し、閉鎖的とされる精神科病院を地域に開放。患者の造形活動に携わり、毎年開くアートフェスタはいつしか「袋田病院美術館」と呼ばれるようになった。「患者の自己表現に加え、精神科医療に対する社会の偏見も変えていきたい」と語る。(学芸部・伊禮由紀子)

患者の版画作品を鑑賞しながら足湯を楽しめる会場を演出した=2016年、茨城県・袋田病院(いずれも上原耕生さん提供)

過去の精神科病棟で実際にあった整列や集団行動の様子を、病院の一角に再現したモニュメント。入院患者と看護師らで制作した

古材をコラージュして患者と一緒に制作した看板

精神科病院でアートを通した患者の自己表現を支援する上原耕生さん=那覇市・沖縄タイムス社

患者の版画作品を鑑賞しながら足湯を楽しめる会場を演出した=2016年、茨城県・袋田病院(いずれも上原耕生さん提供) 過去の精神科病棟で実際にあった整列や集団行動の様子を、病院の一角に再現したモニュメント。入院患者と看護師らで制作した 古材をコラージュして患者と一緒に制作した看板 精神科病院でアートを通した患者の自己表現を支援する上原耕生さん=那覇市・沖縄タイムス社

地域に病院開放

 袋田病院の敷地内にあるアトリエホロスには統合失調症や知的障がい、不登校など病状や年代の異なるさまざまな患者が集う。東京芸術大学大学院を卒業後、2011年から造形職員として携わる上原さんは「学校のように何かを教えるのではなく、自分の好きなことを自由にする場」と患者を見守る。

 テレビをぼんやりと見る人、会話を楽しむ人、絵画や革細工に没頭する人。「作品に取り組んでいると、何だか気が紛れる」。幻聴で頭の中のこびとに悪口を言われていると悩んでいる患者はそう言って、ひたすら版画を彫り続けている。

 13年から毎年秋に病院を開放し、患者の作品を展示するアートフェスタを開催。型にはまらない自由な作品が連なる。中には、患者のメモがびっしり書かれた紙や患者が隠れて栽培していた植木の展示まで。

 「患者のやりたいことを尊重しながら、彼らがやってきたことを展示できるインフラを整えるのが僕の役割」と上原さん。毎年テーマを設け、作品の見せ方も工夫を凝らす。患者が彫った120枚の版画を貼った障子枠で輪をつくり、中央に足湯会場を設けたなど、来場者を楽しませる演出もあった。

 一方、精神科医療の歴史や課題をアートで視覚的に表現する試みも続けている。過去の展示では、実際に使われていた隔離室を公開したほか、大量の残薬を使った絵画作品で、薬の処方に偏りがちな今の精神科医療が抱える課題も提起した。また、過去の歴史として患者が壁にイスを投げたり殴ったりした痕をあえて切り取った作品も展示した。

 アートフェスタを通して「精神科医療に対する社会の偏見や思い込みをなくしたい」と狙いを語る。精神科病院を退院した後も社会復帰が難しかったり、地域の中に溶け込みづらかったりと負のイメージがいまだ根強いと感じている。「心の病は誰にでも起こり得る。だからこそ、病院を一般開放し患者と地域住民が交流しながら、アートを通して感覚的に精神科医療を理解してほしい。それが意識のバリアフリーにつながれば」と願う。