[田中圭太郎ITmedia]

 7月、セブン&アイ・ホールディングス傘下のバーコード決済サービス「7pay(セブン・ペイ)」が、サービス開始直後から不正利用される事態が発生した。7月31日現在、808人のユーザーが被害に遭い、被害総額は合計3800万円あまり。「7pay」はすでにサービスの利用を停止し、9月末で廃止する。

 直接の原因は、不正アクセスへの防御機能がなかったことなどが挙げられている。しかし、IT業界が抱える構造的な問題が、今回の事態を招いたとも報道されている。

7payはサービス開始直後から不正利用が発生した。IT業界の構造的課題とは……(写真提供:ゲッティイメージズ)

1000人以上のエンジニアを抱え、自社製品の開発や技術者派遣を行っているセントラルエンジニアリング(本社・横浜市)の甲賀和生社長は、IT業界の多重下請け構造が「7pay」問題の背景にあると指摘。さらに、この体質が改まらないために、深刻な人材不足を招いているという。

 このままでは日本の将来にも影響しかねない、IT業界の多重下請け構造の問題点を、甲賀社長に聞いた。

甲賀和生 (こうが かずお)1966年生まれ。セントラルエンジニアリング株式会社代表取締役社長。早稲田大学を卒業後、野村證券を経て、1997年に入社。2017年から現職。入社以来20年にわたってエンジニア派遣の営業に携わる

「7pay」失敗の背景に多重下請け構造の可能性

――「7pay」で不正アクセスが起きた問題は、二重認証の不備などが原因だったと発表されています。甲賀社長は多くの企業のハードとソフト両方の開発に携わっている経験から、どのような問題点があると感じていますか。

 発表されている原因の一つに、開発の過程で「システム全体の最適化を十分に検証できていなかった」ことが挙げられています。私は、もっと言えば開発体制に問題があったのではないかと感じています。

――開発体制の問題とは、具体的にはどういうことでしょうか。

 多重下請けです。下請けが多重になればなるほど、指示や命令、仕様が末端まで正しく伝わらなくなります。おそらく「7pay」も、もともとはトラブルを起こしたような仕様ではなかったのではないでしょうか。推測の域は出ませんが、多重下請けの構造によって、当初目指していたシステムができなかった可能性があります。

――多重下請けはIT業界では当たり前なのでしょうか。

 そうですね。IT業界といっても、大きく4つに分けられます。ハードウェア、ソフトウェア、情報システムの開発、インターネットWeb業界の4つですが、このうち情報システムの開発とインターネットWeb業界で多重下請けは顕著です。その根本にあるのは、長く続いている人材不足ですね。

乱立する「ソフトハウス」 人手不足が多重下請け構造の温床に

――なぜ人材不足から、多重下請けの構造が生まれるのでしょうか。

 多重下請けの構造や、派遣なのに業務委託を装う偽装請負の問題は、もともとどの業界にもありました。弊社もまだ派遣という言葉もない時代から、原子力プラントの業界や自動車業界に技術者を派遣してきました。これらの業界では、派遣法などの法制が変わるなかで、違法な二重派遣や偽装請負はなくなっています。

――それでもIT業界でなくなっていないのは、どのような理由からでしょうか。

 例えば自動車やカメラなどの大手メーカーであれば、社内に開発スタッフがいて、生産中止になっても、次の車種や次世代の製品の開発に携わることができます。ところが、ソフトウェアの業界は、規模の大きなプロジェクトでも連続性がないので、開発すれば終わりです。そのため、社内で抱えずに外からスタッフを集めるので、結果的に多重下請けになるのです。

――下請けをする会社は、たくさんあるのですか。

 都内にも渋谷区や新宿区などを中心に、数人から10人くらいの規模の「ソフトハウス」と呼ばれている会社がたくさんあります。その人たちを集めて開発体制をつくっています。さらに言えば、IT業界の変化の早さも、多重下請けにつながっています。多重下請けが最も激しいのは、アマゾンや楽天などの業種です。買い物サイトは全てのサイトを使う人はいませんよね。他社よりもサービスがいいサイトしか使われないので、常に変化せざるを得ません。こうした企業は常にシステムエンジニアが足りず、多重下請けの温床になっていると思います。

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