「夫から報復されるのが怖くて警察に通報できなかった」「夫の命令は絶対で、ロボットのように言うことを聞くのに必死だった」

 昨年3月、東京都目黒区で起きた5歳女児虐待死事件の裁判員裁判で、保護責任者遺棄致死罪に問われた母親は、虐待を止められなかった理由を絞り出すような声でこう語った。

 幼子が受けた恐怖と痛みと絶望を想像すると、何とか守ってほしかったとの思いは今も消えない。ただ事件を今後の教訓とするのなら、母親が夫から受けていたDV(ドメスティックバイオレンス)と虐待の密接な関係にも目を向ける必要がある。

 裁判員裁判では夫から「長いときは半日近く」も厳しい説教を受けるなど、追い詰められ、逆らうことができなくなった様子が明らかにされた。

 娘への暴力をやめるよう訴えた時期もあったようだが「怒られて恐怖を感じた」とし、そのうち「怒ってくれてありがとう」と伝えるようになったという。DVで精神的に支配されていたのだろう。

 公判で読み上げられた「ゆるしてください おねがいします」など、女児が残したメモは何度聞いても胸が締め付けられる。

 暴行を黙認していた母親を責める声があるのは確かで、子を守る義務を怠った責任から逃れることはできない。

 悔やまれてならないのは、虐待やDVを止めるために公的機関につながるなどの発想がなかったことだ。

 そこから浮かび上がるのは自尊感情が持てずに傷つき、孤立する母の姿でもある。

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 今年1月、千葉県野田市で起きた小4女児虐待死事件で父親の暴行を制止しなかったとして傷害ほう助罪に問われた母親も、公判で同じようにDVに支配されて孤立を深める姿が照らし出された。

 児童虐待の背景にはさまざまな要因があるが、DVと虐待が同時に進み、深刻な事態に発展するケースは少なくない。

 事件を受け、NPO法人・全国女性シェルターネットは「暴力支配下にある母親が子どもを守ることは至難の業」「DVと虐待をひとつながりのものととらえ、女性と子どもを連動して守る支援システムが必要」との声明を発表した。

 母子一緒に一時保護するなど虐待されている子どもを助けるには母親への支援が欠かせない。

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 2017年度に内閣府が実施した男女間における暴力調査によると、配偶者からDVがあった場合、2割以上の割合で子どもも被害にあっている。一方、夫からDVを受けた女性の半数近くが、子どものことや経済上の理由から「別れたいと思ったが、別れなかった」と答えている。

 誰でも暴力を振るわれ精神的な支配を受ければ、自分のことで精いっぱいとなるのではないか。

 なぜ母親は夫に同調していったのか、なぜ周囲に助けを求めなかったのか。児童虐待とDVの関係について丁寧な検証を求めたい。