社説

社説 [嘉手納爆音訴訟判決]被害救済せぬ人権の砦

2019年9月12日 08:30

 米軍嘉手納基地周辺の住民2万2千人余りが深夜・早朝の米軍機飛行差し止めと損害賠償などを国に求めた第3次嘉手納爆音訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部(大久保正道裁判長)は11日、総額約261億2577万円の支払いを命じた。飛行差し止め請求は退けた。

 一審判決は、第2次訴訟より損害賠償の算定基準を倍増させ、同種の爆音訴訟では過去最高額となる総額約301億9862万円としたが、判決では理由を明示することなく減額した。爆音による被害を認定しているにもかかわらず、著しい後退である。

 大久保裁判長は今年4月、第2次普天間爆音訴訟の控訴審判決でも一審判決を大幅減額している。

 記者会見した原告・弁護団は全国7基地の周辺住民が法廷闘争を続けており、損害賠償の高額化で国の財政に与える影響を司法が忖度(そんたく)したのではないか、との見方を示した。その見方が正しいのなら三権分立の危機である。

 判決は一審に引き続き、会話やテレビ・ラジオの視聴、勉強、読書、休息や家族だんらんなどの日常生活の妨害、心理的・精神的苦痛、睡眠妨害を原因とするストレス反応による血圧上昇などを認定。

 同基地周辺で爆音が社会問題となってから40年以上がたち、第1次、第2次訴訟が確定しているにもかかわらず、「現在も周辺住民が騒音による被害にさらされている」と受忍限度を超えていると批判する。国の不作為である。

 それでも米軍機の差し止めには踏み込まない。米軍機には日本政府の指揮・命令権が及ばないとする「第三者行為論」によってである。

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 第三者行為論を打破するために、第3次嘉手納爆音訴訟の原告の一部が米国政府に夜間・早朝の米軍機飛行差し止めと損害賠償を求めた「対米訴訟」の控訴審判決も大久保裁判長は同日棄却した。

 「日本の裁判権が及ばない」として米国政府に訴状を送達することもなく、口頭弁論も開かなかった。

 国を訴えれば第三者行為論で米軍機に日本政府の指揮・命令権が及ばないとされ、米国を訴えたら棄却される。米軍基地を提供する国とその基地を使用する米軍は爆音を発生させる共同責任者である。日本政府は当事者そのもののはずである。

 司法は「人権保障の最後の砦(とりで)」といわれる。国民の人権を守らない司法に対し、被害者はどこに救済を求めればいいというのだろうか。

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 司法は嘉手納爆音、普天間爆音両訴訟でも住民被害を認めている。しかし被害をどう除去するかには踏み込んでいない。これでは被害を放置するに等しい。本来であれば司法の務めとして、爆音被害をどう取り除くかについて国に促す必要がある。

 爆音訴訟を巡っては、過去の損害賠償を容認し、将来分の損害賠償請求は棄却する。そして原告らが最も強く要求する深夜・早朝の米軍機飛行差し止めは棄却する。そんなパターンが定着している。司法が思考停止から脱しない限り爆音被害はなくならない。

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