小学生のころ、写真をカラープリントするテレビCMに面白いフレーズがあった。「美しい人はより美しく。そうでない人はそれなりに」。CMと言えば、美辞麗句が当たり前。あまりに自然体な言葉だから、記憶に残ったのだろう。出演した樹木希林さんの発案だった

▼がんによる死去から1年。生前の言葉をまとめた書籍が150万部を突破した。口癖は「人と自分を比較しない」。思い通りにいかないのが当たり前。「こんなはずでは…」なんて思わない。日々の数字に追われ、社内外で競争にさらされる会社員は慰められる

▼物欲のない人だった。友人からもらったステテコを下着にする。長靴を40年以上も履き、自宅のテレビはブラウン管。「モノがあると、モノに追いかけられる」

▼傷つき、挫折した人が好き。「そのぶん、痛みを知ってるから」。何度も傷つき、挫折したゆえのまなざしだろう

▼夫の故内田裕也さんが新婚のころ書いたラブレターを、大切に保管していた。「メシ!」「このやろう!」「てめえ!」「でも、本当に心から愛してます」。壮絶な絆で結ばれていた

▼「容姿が不細工で得をした」とも。男性をじっくり見極められたという。死の翌日、対面した内田さんが言った。「きれいだ、きれいだ。昔から美人だと思ってたんだ」。きっと、天国で笑い合っている。(吉田央)