住民訴訟を起こした市民に対し、宮古島市が名誉を毀損(きそん)されたとして損害賠償を求め提訴する議案を提出していた問題で、市議会が議案撤回を承認した。下地敏彦市長が撤回を申し出ていた。

 議案は、言論を封じ込めることを目的にした「スラップ訴訟」であるとの指摘が上がったほか、市民の批判が市の名誉毀損にあたるとする根拠自体があいまいで批判が強かった。撤回は当然だ。

 提案の直後から、市の名誉が毀損されたと言いながら提訴の原告が宮古島市長と明記されていたり、刑法の規定を民法と書かれていたりするなど議案書の不備が相次いで発覚。市議会は、当初予定されていた総務財政委員会での採決を延期していた。

 市長は同委員会の再審議直前に撤回を申し出たが、この間の混乱を招いた責任は重い。にもかかわらず撤回理由について市長は「精査するため」「その後については分からない」との答弁を繰り返した。何をどのように精査するのか、具体的な内容を述べることもなく、再提案へ含みを持たせる態度は、市政の長として大いに疑問だ。

 一連の問題について市議会もチェック機能を果たせたとはいえない。一部の与党市議から「さすがにこの議案を通したら恥ずかしい」との声も漏れたが、委員会という公の場での議論は十分なされなかった。本紙の議員アンケートでも与党全15人と中立2人が賛否を明確にしなかった。

 市政批判を名誉毀損と断じて市民を提訴するという市の方針は正しかったのか、否か。市長は、真摯(しんし)な精査を実施し結果を公表するなど、市民への説明責任を全うすべきだ。

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 そもそも市が問題とする住民訴訟の背景には2014年度に市が実施した不法投棄ごみの撤去事業を巡り、市民らの住民監査請求が認められなかったことがある。市民6人が「市が違法で高額な契約を業者と結んだ」などとして訴訟を起こしたが、一審、二審とも市民側が敗訴し、最高裁も上告を棄却した。

 ただ、同事業では、不法投棄のごみ計量票の写しを改ざんし、市議会に提出したとして虚偽有印公文書作成・同行使の罪で市職員が有罪になった。事業にずさんな部分があったのは明白で、市民のチェックは、当然の権利を行使したまでである。

 仮に市に名誉があるとすれば、住民訴訟で「市に違法性はない」との判決が出たことで回復されたのではないか。それなのに市民を、市が訴える意図は何か。「名誉毀損があった」と繰り返すだけでは納得できない。

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 行政が、批判する側を名誉毀損で訴えた裁判は12年にもあった。高知県黒潮町では、ケーブルテレビ事業の工事入札を巡り批判する町議5人を提訴。しかし裁判所は、町が相応の批判を受けるのは当然として町の請求を棄却し、加えて町による提訴の違法性も認めている。

 判例を見れば、宮古島市の市民提訴方針は暴挙に等しい。再提案などもってのほかである。