口に入れる食品だけに不安が拭えない。

 消費者庁は、ゲノム編集技術を使って品種改良した農水産物の大半について、表示することを義務付けない、と発表した。

 ゲノム編集食品は特定の遺伝子を切断してつくられる。外部から遺伝子を挿入する場合は安全性審査が必要で表示を義務付ける一方で、挿入しない場合は安全性審査が不要で表示を義務付けない。開発が進む食品の大半は挿入しないタイプという。

 表示を義務付けない理由として、遺伝子の改変がゲノム編集によるものか、品種改良で起きたのか科学的に判別できないことと、表示義務に違反する商品があっても見抜けないことを挙げる。

 この説明に納得する消費者がどれだけいるだろうか。

 見抜けないことが表示しない理由にはならない。開発者や生産者を追跡すれば可能なはずだ。消費者目線に立たなければならない官庁として無責任のそしりを免れない。

 生産者や販売者らが包装やウェブ上などで表示するよう働き掛けるという。生産者や販売者の自主性に任せるもので、実効性は不透明だ。

 ゲノム編集食品は早ければ年内にも市場に出回る見通しだ。表示なしでは、消費者は遺伝子の一部が改変された食品と知らずに購入し、食べる可能性がある。消費者が商品を選択する権利を奪うことになりかねない。

 消費者庁が消費者の視点よりも、生産者や販売者らを重視しているように映ることは大きな問題だ。仮に健康に被害が出た場合には誰が責任をとるのだろうか。

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 厚生労働省も同じタイプのゲノム編集食品について安全性審査をせず、届け出制にすると通知した。法的に義務のない届け出である。届け出なくても罰則がない以上、これも実効性に疑問符が付く。

 厚労省が審査を求めないのは遺伝子を壊したタイプは自然の中でも起こり得る変化だからという。だがゲノム編集は新しい技術である。楽観すぎる見方というほかない。

 東京大医科学研究所の研究グループが昨年5~6月実施したインターネット調査でゲノム編集の農作物を「食べたくない」と答えた人が4割超。予期せぬ悪影響が起きないか、誰も分からないと言っても過言でない技術に不安を覚えるのは当然である。

 欧州連合(EU)の司法裁判所は昨年7月、ゲノム編集食品も遺伝子組み換え作物として規制すべきだとの判断を示している。政府は消費者の懸念に応えるのが先である。

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 ゲノム編集の技術を使った農水産物として肉付きのいい魚や血圧を下げる成分を増やしたトマト、芽に毒のないジャガイモなどの開発が大学などの研究機関で進む。

 ゲノム編集食品は昨年6月に政府が決定した「統合イノベーション戦略」に盛り込まれた。食品として流通させることを最優先に前のめりになっているようにみえる。

 健康に直接関わる問題である。届け出も、表示も義務化すべきである。厚労省、消費者庁に再考を求めたい。