文化庁は26日、愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金約7800万円を交付しないと発表した。

 内定していた補助金の取り消しは極めて異例である。「事後検閲」の疑いが濃厚だ。

 同芸術祭を巡っては元「従軍慰安婦」を象徴した「平和の少女像」や昭和天皇を含む肖像群が燃え上がる映像作品などを展示した企画展「表現の不自由展・その後」に、テロ予告や脅迫が殺到。芸術祭実行委員会は「安全な運営が危ぶまれる」と、開幕からわずか3日で中止した。

 文化庁は4月、同芸術祭への補助金を内定。萩生田光一文部科学相は27日、「不交付決定は展示の具体的な内容とは何ら関係ない」とし、少女像などの展示が影響していないとの認識を示した。

 だが額面通りに受け止める人がどれだけいるだろうか。

 文化庁は少女像などが物議を醸したことを受け、事実関係を調査。不交付決定の理由を「円滑な運営を脅かす事態を予想していたにもかかわらず、文化庁の問い合わせまで申告しなかった」ことを挙げ、「申請手続きに不適当な行為があった」と形式上の不備を強調する。いかにも取って付けたような理由だ。

 愛知県が設置した第三者による検証委員会が25日、「条件が整い次第、速やかに再開すべきだ」とする中間報告をまとめた。実行委会長の大村秀章知事も「再開を目指したい」と意欲を示した直後のタイミングである。文化庁の決定は、政治から圧力がかかったと捉えられても仕方がない。

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 実際、実行委会長代行の河村たかし名古屋市長は少女像を「日本国民の心を踏みにじる」と即刻中止を求めた。あからさまな介入であり、どう喝である。菅義偉官房長官も「交付に当たっては精査した上で適切に対応したい」と「権力の介入」と受け止められかねない発言をした。

 憲法21条は「集会、結社及(およ)び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」「検閲は、これをしてはならない」と規定している。

 文化芸術基本法も基本理念として「文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない」とうたう。法成立の際には衆参そろって付帯決議で政府が「不当に干渉することのないようにすること」が盛り込まれた。

 行政や政治家は自由な表現活動を守るため、テロ予告や脅迫を排除することこそが本来の責務なのである。

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 大村知事は「憲法21条の重大な侵害」として表現の自由を争点に訴訟を起こす構え。

 内定を覆し不交付とすることが前例となれば表現の現場が萎縮する。深刻なのは脅迫で中止に追い込むことを追認してしまうことである。

 芸術は作品を通じてさまざまな表現と向き合い、対話することである。時に波風が立つこともあるだろう。

 多様な表現の自由を認め合う雰囲気が社会から失われると、息苦しくなる。

 会期末は10月14日。文化庁は補助金の不交付を見直し、「不自由展」の再開にこそ力を尽くすべきである。