新年を迎えると注目される「景気」。年始挨拶で口にする人も少なくない。景気を上向かせるための金融緩和など政府の経済政策の指標ともなる
▼だが「景気とは」と問われて答えられる人がどれだけいるだろうか。株価の変動? 会社の売り上げ? 実は英語で直訳する単語がない曖昧な言葉だ。広辞苑でも「威勢がよいこと」「売買・取引などの経済活動の状況」など幅広い
▼日本人の多くが「景気が良くなれば生活は良くなる」と信じるが、「デフレの正体」の著者・藻谷浩介氏は妄想と断じる。景気神話は一握りの投資家向けの経済情報としてメディアが作り出したとも
▼大騒ぎしたバブルやリーマンショックも、本当は庶民にさほど影響を与えなかった事実を、小売指標や個人消費を元に解説。経済を動かすのは景気ではなく生産年齢人口だという。現役世代が減った街は商店が閉鎖、貸しビルが倒産する
▼20年以上前からそれと同じことが全国で起きているのに、人口増加時代と同様に経済成長だけを気にした政策の無意味さを指摘する。近年その典型として批判する一つがアベノミクス
▼円安でにぎわう外国人観光客のニュースは華々しいが、その裏で過去にない貿易赤字国に転落した日本。曖昧な指標やイメージより足下をみよ、という彼の指摘に耳を傾けるべきだ。(黒島美奈子)