タイムス×クロス 木村草太の憲法の新手

木村草太の憲法の新手(113)共同親権制度 推進論者は明確な定義を 報道には配慮も必要

2019年10月6日 14:00

 9月27日、河井克行法務大臣が、離婚後共同親権制度の研究会を立ち上げると発表した。今後、共同親権を巡る議論や報道が増えるだろう。その際に、注意すべきことをまとめておく。

 まず、何らかの制度について議論するには、その対象を明確に定義する必要がある。本山敦教授は、各国離婚法制の多様性を確認した上で、「論者により、イメージは異なっており、共同親権推進論者はともすれば同床異夢」だと指摘する(同編『親権法の比較研究』427ページ以下)。議論に際しては、推進論者に「共同親権」を明確に定義してもらわねばならない。

 この点、推進論者の多くは、「共同親権にすれば、子との面会機会が増える」と主張する。しかし、親権は面会強制権ではない。国内法には、「子の利益」のため、親権の有無に関わらず裁判所が面会交流を命じる規定(民法766条)がある。面会交流推進に必要なのは、共同親権制度ではなく、安全・安価な面会場の整備、離婚家庭への心理的・経済的支援、家庭裁判所の調査能力・権限向上などだろう。

 さらに、この問題をメディアが扱うとき特有の、配慮すべき点を指摘したい。

 離婚関係の報道では、当事者が特定されないように、極めて慎重であらねばならない。一般に、離婚や父母の紛争の事実は、他者に知られたくない情報だからだ。離婚当事者の一人について、実名を出したり、顔出ししたりすれば、当人はよくても、相手方や子どものプライバシー侵害となり得るし、生活を脅かす危険もある。

 また、離婚等に至る経緯は、当事者の間で認識が一致しないことも多い。離婚後共同親権を求める当事者の中には、自分には一切の非がないのに、「元配偶者が違法に子どもを連れ去った」、「身勝手で子どもに会わせない」と主張する人もいる。しかし、相手方に取材すれば、全く異なる事実を主張することも多いだろう。一方の主張のみに基づく報道は、人々に誤った印象を与える危険が高い。

 なお、相手方を取材しようとしても、報道自体が子どもに強いストレスを与える可能性を考え、取材を拒否することもあり得る。その時は、どんなに一方当事者が「自分から見た離婚体験」を発信したがっていても、報道自体を差し控えるべきだ。どうしても報道する必要があるなら、匿名化し、相手方がコメントを拒否していることを併せて伝える必要があろう。

 一方当事者の主張に基づく離婚報道については、過去に、NHKが名誉毀損(きそん)に基づく損害賠償命令を受けたこともある。

 平成13年7月18日の東京高裁判決は、「離婚の経過や離婚原因は、関係当事者にとっては極めてプライベートな事柄に属し、しかも、通常この点についての関係当事者の認識ないし言い分は必ずしも一致せず、ときには鋭く対立することが多いものである」と指摘した。そして、「公共性のあるテレビ番組であっても、関係当事者の承諾を得、双方からの取材を尽くし、できるだけ真実の把握に努めることを要するものというべき」なのに、NHKは「そのような努力を怠った」と判示した。最高裁も賠償命令を維持している。(首都大学東京教授、憲法学者)

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