かんぽ生命保険の不正販売を報じたNHKの番組を巡り、日本郵政グループの抗議を受けた経営委員会が上田良一会長を厳重注意した。

 番組編集の自主自律を脅かしかねない事態だ。

 経営委は放送法に基づき設置されているNHKの最高意思決定機関である。委員長の石原進JR九州相談役ら委員は12人で、国会の同意を得て首相が任命する。

 放送法32条は「委員は個別の放送番組の編集業務を執行することができない」などと番組の編集に干渉することを禁じている。経営委による厳重注意は放送法に触れる疑いが濃厚である。

 番組は昨年4月に放送された「クローズアップ現代+(プラス)」の「郵便局が保険を“押し売り”!? 郵便局員たちの告白」。番組公式ツイッターで情報提供を呼び掛ける動画を投稿。制作現場では新たな動画を投稿して続編を準備する考えだった。

 投稿後の7月、郵政側は会長に「組織ぐるみでやっているような印象を与える」と抗議文を送り、投稿の削除を求めた。番組担当者が「会長は番組制作に関与しない」と説明。番組制作は現場に任されており、説明は間違いではない。だが郵政側はこの発言をとらえ、「最終責任者は会長だ」として、8月に会長にガバナンス(企業統治)体制の認識を求める文書を送付。同様の文書を送られた経営委は10月に会長を厳重注意した。

 会長は郵政側に事実上、謝罪した。報道・制作現場の萎縮につながり、公共放送の使命である自主自律をないがしろにしたというほかない。

    ■    ■

 日本郵政グループにも猛省を促したい。長門正貢社長は先月30日の記者会見で、社内調査をしないまま抗議したことについて「深く反省している」と陳謝した。「今となっては全くその通り」と放送内容を認めた。

 郵政側は抗議ではなく報道内容を真摯(しんし)に受け止め、内部調査を始めるべきだった。かんぽ生命保険の不正販売の被害拡大を防ぐことができたはずだ。だが副社長の鈴木康雄・元総務事務次官はNHKの取材手法を「暴力団と一緒」と非難するなど開き直りとしか受け取れない姿勢だ。

 背景にはNHKと日本郵政のいびつな関係がある。日本郵政は政府が筆頭株主である。鈴木副社長をはじめ、放送行政を所管する総務省のOBが少なくない。同省の権限を背景にNHKに圧力をかけた構図が見て取れる。

    ■    ■

 厳重注意と事実上の謝罪に視聴者が不信感を抱くのは当然だ。郵政側の抗議で投稿が削除され、続編の放送は当初の見通しより約1年ずれ込み、今年7月に放映された。圧力に屈したように映る。

 経営委は厳重注意に際しては放送法で義務付けられている議事録も作成していなかった。問題であることを認識していたからではないのか。

 NHKは政治報道が政権寄りと批判されている。公共放送として国民の知る権利に応え、信頼を取り戻すには経営委や会長が自らの責任を明らかにしなければならない。臨時国会での追及も必要だ。