社説

社説 [表現の不自由展再開] 政治の介入は許されぬ

2019年10月9日 08:36

 元「従軍慰安婦」を象徴する少女像などへの抗議や放火をほのめかす脅迫により中止に追い込まれた「表現の不自由展・その後」が8日、愛知県で開幕中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で再開した。歓迎したい。

 8月1日の開幕から3日間で中止となって2カ月余。このまま閉会していれば、電凸攻撃(一斉にかかってくる抗議電話)や脅迫によって中止に追い込むことができるという「悪(あ)しき前例や自主規制を誘発する」(検証委員会中間報告)と懸念されていた。最終日までの7日間ではあるが、全作品を元通り展示し、暴力や政治介入に屈せず、表現の自由を守る姿勢を示した。

 表現の不自由展は少女像のほか、昭和天皇とみられる人物の肖像が燃える場面を含む映像作品、米軍基地、政権批判などさまざまなテーマの23作品が内外の作家や団体16組から出展されていた。ところが芸術祭開幕直後に少女像と天皇を扱った映像に抗議が殺到。放火の脅迫まであり、「安全の確保が難しい」と中止された。

 再開は抽選方式を導入し、入場を制限した。会場で金属探知機による検査や手荷物検査を実施する。入場者や会場スタッフの安全確保のために万全の対策を求めたい。

 一方、萩生田光一文部科学相は8日の記者会見で文化庁が補助金を交付しないことをあらためて表明した。不交付は「申告すべき事実を申告しなかったという手続き上の理由」としている。額面通りには受け止められない。事業採択後の不交付は異例で、事実上の「事後検閲」といわざるを得ない。撤回すべきだ。

    ■    ■

 名古屋市の河村たかし市長は8日、会場を視察した後、「とんでもない。表現の自由の名を借り、世論をハイジャックする暴力だ」と批判した。河村市長は開幕時にも「日本国民の心を踏みにじるものだ。公金を使って展示するべきではない」と中止を求める発言をしている。自民党の保守系議員が「政治的プロパガンダ」と訴えるなど同様の考えを表明する政治家が相次いだ。

 展示を妨害したのは、意に沿わない表現を不当な攻撃によって排除しようとした人たちだ。

 本来なら表現の自由を守るため、妨害を排除するのが政治家の責務だ。展示中止を求める政治家の一連の言動が逆に脅迫や電話による攻撃を勢いづかせたことを忘れてはならない。

    ■    ■

 政府や政治家の不当な圧力は芸術の萎縮を招く危険性がある。特に政治的内容によって補助金の交付を決めるという恣意(しい)的な運用は、「政府を批判する内容の事業には金を出さない」ことを示した形になっている。そのような事態が続けば、企画段階で政府に忖度(そんたく)する動きが加速し、自由な表現が影を潜めかねない。

 文化芸術基本法は基本理念として「文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない」とうたう。再開で終わりではない。不自由展を巡る問題を検証し、今後の芸術活動に対する教訓として、表現の自由を守る再出発にしたい。

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