パソコンやスマートフォンなどに使われるリチウムイオン電池を開発した旭化成名誉フェローの吉野彰氏(71)ら3氏が、今年のノーベル化学賞に決まった。

 誰でも「電源」を持ち歩くことが可能となり、電子機器の普及で世界の人々の生活に革命をもたらした。ITを含む産業の発展にも大きく貢献。電気自動車や人工衛星など幅広い分野での応用も可能にした功績をたたえたい。

 日本人の受賞は、昨年の本庶佑京都大特別教授の医学生理学賞に続いて2年連続となる。企業の研究者では島津製作所の田中耕一氏が受賞している。日本の科学技術と企業の研究力の高さが示されたといえる。

 吉野氏が開発したリチウムイオン電池は、使い捨てのアルカリ乾電池とは違い、小型・軽量で充電して繰り返し使える「2次電池」。1981年に始まった開発は、共同受賞者の研究もかかわっている。

 ジョン・グッドイナフ米テキサス大教授らによって「コバルト酸リチウム」という物質が2次電池のプラスの電極として使えることが分かった。ただ、それと組み合わせるマイナスの電極に適切な物質が見つからなかった。

 これを受けて、吉野氏は炭素材料がマイナスの電極として性能を発揮することを突き止めた。試行錯誤を重ね、現在のリチウムイオン電池の原型を作り上げ、90年代初めに実用化された。

 研究信条の「柔軟性と執着心」が生んだ成果である。

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 リチウムイオン電池は電気自動車やハイブリッド車、家庭用の蓄電池などの用途としても期待されている。電源を石炭や石油などの化石燃料から、太陽光や風力などの再生可能エネルギーに転換したり、電気を電池にためて使うことができる。

 温室効果ガス排出の削減による地球温暖化対策にも有用とされる。

 ノーベル賞の授賞理由でも「太陽光や風力から多くのエネルギーを蓄えることができ、化石燃料のない社会基盤を築いた」と評価された。吉野氏も会見で「電池が環境問題に対して一つのソリューション(解決策)になる」と述べている。

 世界は2020年から本格始動する温暖化対策の新枠組み「パリ協定」に基づき、脱炭素社会を目指す。化石燃料の依存度が高い日本は、これらの優れた技術を生かして環境問題の解決につなげるべきだ。

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 「若い研究者の大きな励みになると思う」と吉野氏は受賞の喜びを語る。

 しかし一方で、日本の研究環境の悪化が指摘されて久しい。利益重視による開発期間の短縮や、大学における基礎研究力の低下の懸念などもある。

 吉野氏は研究開発について「ある目的に向かって行う研究も大事だが、誰も気付かないような大発見は目的を先に置いていると難しい。基礎と応用の両輪が大事」と話す。

 日本が誇る技術力の向上に向けた研究体制の在り方の議論も必要だろう。