大弦小弦

[大弦小弦]家畜の論理

2019年10月14日 06:30

 シリアの人々はかつて、秘密警察の監視下で一見平和に暮らしていた。民主化運動が泥沼の内戦に拡大した後、ジャーナリストの安田純平さん(45)は昔の方が良かったのでは、と尋ねてこう返されたという。「飯が食えて安全だったけど、俺たちは家畜じゃない」

▼シリアで3年4カ月間拘束された安田さんが無事解放され、もうすぐ1年になる。「拘束は自己責任。なのに助けてくれた政府を批判している」などと今も中傷がやまない

▼事実は違う。全ての証拠は政府が救出を放棄し、無策だったことを示している。当事者である安田さんはそのことを批判しないし、自己責任も否定していない

▼自己責任を突き詰めれば、戦地取材も自由ということになる。ところが、被害を受けるわけでもない人が「迷惑だ」と止める。「俺も空気を読んでおとなしくしている。お前も」と言うようなもので、まさに家畜の論理である。自己も責任もない

▼家畜同士が忠誠を競い、足を引っ張り合い、足元を掘り崩していくのはご主人様には好都合だ。放っておいても統制され、厳罰を受け入れるようになる

▼安田さんは現在、外務省にパスポート発給を拒否され、日本という柵の中に閉じ込められている。「自由はまだ奪われたままです」。シリアの人々も日本の私たちも、もちろん家畜ではない。(阿部岳

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