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極限状態だった大吾 王座剝奪も「これで水が飲める」

2019年10月26日 06:00

 前回、プロボクサー・比嘉大吾に直接質問できたのは2018年4月13日。16試合連続KO勝利の日本新記録が懸かる、自身3度目の防衛戦の2日前に行われた調印式だった。

復帰を目指し、友利正トレーナーのミットにパンチを打ち込む比嘉大吾=白井・具志堅スポーツジム(小笠原大介東京通信員撮影)

比嘉大吾のプロ全戦績

復帰を目指し、友利正トレーナーのミットにパンチを打ち込む比嘉大吾=白井・具志堅スポーツジム(小笠原大介東京通信員撮影) 比嘉大吾のプロ全戦績

 「1ラウンドから全力で」との言葉とは裏腹に、体重が落ちず憔悴(しょうすい)し切っていた日々。「食事と水分を取りたい一心で、寝たきりの毎日。生きている感覚はなかった」と振り返る。

 翌日の軽量で900グラムオーバーし、世界王座を剝奪された。日本ボクシング界初の失態にも「悔しさよりも、これで水が飲めるという安堵(あんど)感が勝った」と、極限の状態だったことを打ち明けた。

 それでも15日、横浜アリーナのリングでは「勝つことだけを考えていた」と疲弊し切った体を奮い起こし、相手のクリストファー・ロサレスに対して真っ向勝負を仕掛けた。9回TKO負けでプロ初黒星、屈辱のタオル投入によるゴングだったが、あまり記憶に残っていないという。

 試合後は5日間の入院を余儀なくされた。減量失敗についてはさまざまな批判が飛び交ったが、「たとえ試合の日が延びていたとしても、フライ級にはもう落とせなかったと思う」。体はすでに限界だった。

 入院中、友人からはSNSを通して励ましの声が届いた。「みんな気を使ってくれた。でも、ボクシングは辞めるつもりだった」という。

 退院後、ようやく手に入れた念願の自由な時間。「朝起きたら食べたい物を食べ、やりたいことを飽きるまでやる」。これまでボクシングで犠牲にしてきた時間を取り戻すかのように、1人の20代の若者としての日々を謳歌(おうか)した。

 だが、時間がたっても心は晴れない。「ボクシングを辞めても、他にやりたいことがあるわけでもない。このまま時間だけが過ぎていくのが嫌だった」。決して誰かからの言葉が後押ししたわけでもない。ただ「ボクシングをやり切った感覚がなかった」と、自らの意思でリングに戻る道を選んだ。

 体を動かす感覚でやっていたジムワークは、週1回から3回と徐々に回数を増やした。現在は、謹慎前と同じ週6日のペースに戻っている。

 復帰の主戦場はバンタム級(53・52キロ以下)以上が有力だ。2階級下のフライ級(50・80キロ以下)の減量苦からは解放されるものの、バンタムには世界3階級制覇を成し遂げ、現在は2団体統一王者の井上尚弥(大橋)などの逸材がそろう。友利正トレーナーは「パワーでは簡単に押し負ける。相手の懐に入る勇気と、キレのあるショートパンチが必要。まずはスパーリングから」と課題を挙げる。

 「バンタム以上で戦う相手が大きくなることより、毎回10キロ以上の減量から解放されることの方が大きい」と話す比嘉に、あえて聞いてみた。「再び世界王者に返り咲く意思はあるか」と。

 少しの間があってから口を開いた。「まだ頭の中が整理できておらず、正直現実味はない。一つずつ勝っていくことがモチベーションになるはず。まずは復帰戦のことだけを考える」

 迷いが晴れない中で再びグローブを手に取り、ゼロからのスタートを切った。豪快なKO劇と、はち切れんばかりの笑顔をまたリングの上で見たい。

(小笠原大介東京通信員)

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