心不全で宜野湾市長の職を辞し心臓移植で命をつないだ安里猛さん(67)が10月、琉球大学医学部付属病院の医師らと連携し、心臓移植の患者と家族を支える会「芭蕉(ばしょう)の会」を立ち上げた。心臓移植の実施施設がない県内の患者や家族は、入院・療養のため一定期間を本土で過ごす必要があり、渡航や滞在費の負担が重くのしかかる。安里さんは「増加が見込まれる移植希望者が、経済的な理由で生きる選択肢を奪われてはいけない」と強調。1万人の署名集めや募金活動を展開し、沖縄県や県議会などに支援制度の創設を訴えていく考えだ。(学芸部・新垣綾子)

「芭蕉の会」を立ち上げた心臓移植経験者の(前列右から)安里猛さんと森智秀さん、琉大病院の(後列左から)國吉幸男医師、稲福斉医師、渡具知久子看護師長、阿嘉直美副看護師長=8日、琉大病院

 安里さんは市長在任中の2011年に心筋梗塞で倒れ、琉大病院で体外式の補助人工心臓を装着。同年末に辞職して心臓のドナー(提供者)を待つ身となり、3年後に東京大学医学部付属病院で手術を受けた。琉大病院から本土に渡り、心臓を移植した初めての患者になった。

 日本臓器移植ネットワークによると、ことし9月30日時点で国内の心臓移植希望登録者は777人。待機期間は平均で3~4年に及び、琉大病院から安里さんを含む3人が移植に成功し、現在は6人が移植を待っている。

 移植までをつなぐ補助人工心臓治療の進歩で助かる命が増えた一方、国内で心臓移植が実施できる施設は東大病院や国立循環器病研究センター(大阪)など本土10施設(うち4施設は11歳未満の患者も対応可能)に限られる。

 離島県である沖縄の患者や家族は移植の順番が近づくと本土の移植施設に転院し、手術後も感染症などの経過観察で原則1年程度、現地にとどまり定期的な通院が求められる。移植費用は保険適用されるが療養中のアパート家賃といった生活費がかさみ、術前の転院に同行する医療スタッフの渡航費も負う。

 移植から5年がたった安里さんは、経済的に苦しむ患者・家族を目の当たりにし「命を救われた一人として、これから移植が必要になる人たちの助けになりたい」と決意。1日付で発足した芭蕉の会のメンバーは、会長の安里さんのほか2人目の移植成功者となった豊見城市の会社員森智秀さん(47)、琉大病院の医師や看護師ら。「芭蕉」は琉大の学章にちなむ。

 安里さんの主治医で琉大病院の稲福斉医師は「生活習慣病の増加で、心筋梗塞などに起因する末期心不全患者も増える」と推測し、心臓移植の支援体制整備が重要と指摘。元院長の國吉幸男医師は「患者と医療者が力を合わせ、沖縄の移植患者が抱える課題を社会に訴えたい」と語った。