沖縄タイムス+プラス ニュース

憎悪の演説もう5年 差別の脅威で人間不信に

2019年10月28日 05:00

 [反ヘイト 川崎ー沖縄]

 旅行かばんを引いて歩く中国人男性に追いすがり、食ってかかる。

街宣する久我信太郎氏。今は週1回、那覇市役所前に来る=2日

 「ここはな、お前の汚い中国じゃないぞ。腐った中国、さっさと帰れ!」

 叫んだのは久我信太郎氏67。那覇市役所前で2016年12月に撮った動画を、ネット上で繰り返し拡散している。

 千葉県出身で11年に移住してきた。「シーサー平和運動センター」などと名乗り、14年からもう5年、街宣を続けている。

 主な標的は中国。「シナは2200年間、ずーっと人殺しでうそつきで泥棒なんですよ」と語る動画もネットに残している。

 中国人という簡単に変えられない属性を攻撃し、ののしる。「シナ」は、言われる中国の側が蔑称だとして拒否している。醜悪なヘイトスピーチである。

 10月2日、街宣のため市役所前に来た久我氏に直接尋ねた。久我氏は静かな口調で、しかし「シナ」と繰り返した。

 ―街宣はヘイトスピーチではないか。

 「情報伝達で、ヘイトスピーチではない」

 ―この周辺には中国人の観光客も多い。不安に思うだろう。

 「シナ人には不安になってもらいたい。歓迎していないことを分かってほしい」

 排除の意図を隠そうともしない。中国人や中国にルーツを持つ人の人権を脅かし、2次的には沖縄の観光産業にも悪影響を与えている。

 ■「沖縄にも被害者」

 石垣市には、ネット上のヘイトスピーチで深く傷付いた在日韓国人の男性36がいる。

 匿名掲示板に「在日朝鮮人、詐欺師、借金まみれ」「在日は恐ろしい」などと書かれた。経営する総合マリンサービス店の利用客は離れ、精神的にも経済的にも追い込まれた。

 男性の刑事告訴を受け、捜査当局が2人の加害者を特定した。うち1人は仕事を助けたことのある人物だった。

 「信じていた人間に裏切られた。人間なんてもう信じられない」。加害者2人は名誉毀き損そん罪でそれぞれ罰金10万円の略式命令を受けたが、傷は消えない。

 男性は韓国で生まれ、小学生の時にコリアンが多く住む川崎市に引っ越し、育った。ヘイトスピーチやデモの標的とされ、その被害を食い止めるために対策を積み上げてきた街。

 男性は「僕だけでなく、悔しい思いをしている被害者は沖縄にもいる。川崎に負けないで、沖縄の行政も被害を抑止してほしい」と願う。

   □    □

 ヘイトスピーチに刑事罰を科す全国初の差別根絶条例案を、川崎市が準備している。来月には市議会に提出し、年内成立を目指す。沖縄から取材に行き、先進の対策と足元の被害を考えた。(編集委員・阿部岳

ルポ沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実 (朝日文庫)
阿部 岳
朝日新聞出版 (2020-01-07)
売り上げランキング: 9,780
連載・コラム
きょうのお天気