タイムス×クロス 木村草太の憲法の新手

[木村草太の憲法の新手](115)映画「主戦場」上映中止 理由として無理ある訴訟提起

2019年11月3日 18:00

 NPO主催、川崎市共催・出資の「KAWASAKIしんゆり映画祭」で、映画「主戦場」の上映が中止になった。「主戦場」の上映差し止め訴訟が提起されていることについて、川崎市が懸念を示したのが、中止理由だという。

 「主戦場」は、慰安婦論争をテーマとしたドキュメンタリーだ。訴訟提起した出演者たちは、取材時に「商業映画」として公表するとの説明がなかったことを、差し止め理由としている。

 これに対し、映画監督側は、次のように反論する。(1)原告らとは、映画公開を予定する文言を含む承諾書・合意書を交わした(2)原告らは、試写会に招待されており、一般公開前に異議を申し立てられたはずなのに、そうしなかった-。このことからすると、原告らの不満は、「商業映画」であることではなく、映画の内容にあるのではないか。

 いずれの主張が妥当かは置いておくとして、差し止め訴訟の提起そのものを上映中止の理由とするのには、無理がある。

 憲法・民事訴訟法は広く裁判を受ける権利を保障しており、映画出演の有無にかかわらず、差し止め訴訟の提起そのものは可能だ。差し止め訴訟の提起が上映中止理由になるなら、誰もが、気に入らない映画の上映を妨害できてしまうだろう。現段階では、上映差し止めを命じる判決や仮処分は出ていない。それにもかかわらず、訴訟提起を理由に、懸念を表明した川崎市や、上映中止の決定をした主催者の対応は、不適切だろう。

 また、映画祭のホームページには、訴訟以外にも、「起こりうる事態を想定し、私たちができうる対策を何度も検討した結果」、上映を中止したとの説明がある。この点について、映画祭主催の中山周治代表は、10月30日の集いで、あいちトリエンナーレでの出来事を踏まえ、「嫌がらせや脅迫など見えない恐怖におびえた」と説明した。

 映画祭のスタッフは限られており、脅迫への対応は難しいとのことだ。また、上映を求める声には、「上映しろという圧力に屈するわけにいかない」と答えた。

 しかし、業務妨害になるほどの嫌がらせや脅迫は犯罪だ。それに対応すべきは警察であり、スタッフ不足は中止理由にならない。また、上映を求める声は理にかなっており、それを「圧力」と表現するのはあまりに不穏当だ。

 もっとも、映画祭主催者には、同情せざるを得ない面もある。このところ、「あいちトリエンナーレ」や映画「宮本から君へ」など、不可解な理由での補助金不交付が相次いでいる。川崎市の懸念を無視すれば、今後の共催や補助金に悪影響が生じると心配するのも無理はない。

 だとすれば、川崎市は、映画祭に対し、訴訟や嫌がらせリスクなどは、補助金や共催の決定に影響を及ぼさないこと、また、脅迫などの犯罪には、警察の協力の下、共催者として毅然(きぜん)とした対応をとることを伝え、映画祭主催者を支えるべきだった。映画祭のイベントに参加した是枝裕和監督も、「川崎市は懸念を表明するのではなく、共催者として懸念を払拭(ふっしょく)するために行動するべきだった」と強く非難した。

 今後、上映実現に向けて、川崎市と映画祭とが協同することに期待したい。(首都大学東京教授、憲法学者)

 本稿脱稿後、映画祭は最終日に「主戦場」の上映を決定した。

人気連載「憲法の新手」が本になりました!

木村草太の憲法の新手2 木村草太の憲法の新手

沖縄タイムスのネットショップからも購入できます。

前の記事へ 次の記事へ
沖縄関連、今話題です(外部サイト)
JavaScriptをOnにしてください
きょうのお天気
アクセスランキング
ニュース 解説・コラム
24時間 1週間