[鼓動を刻む 命つなぐ心臓移植](5)

 90件。脳死下、心停止後を合わせ今年1月から9月末までに国内で臓器提供された件数だ。昨年1年間の95件に迫り、このペースでいくと臓器移植法が施行された1997年以降の年間件数で最も多くなる可能性がある。本人の意思が不明でも家族の承諾があれば臓器提供でき、15歳未満からの提供にも道を開く改正法が施行されたのは2010年。脳死での臓器提供が増える転換点となった。

脳死での臓器提供件数と心臓移植件数

 しかし世界各国と比較すれば、大きく後れを取っているのが実情だ。

 国際臓器提供登録(18年)によると、人口100万人当たりの臓器提供は日本が0・88人に対し、最多のスペインは48人、米国も30人を超える。隣国では、9・95人の韓国より一桁少なく、3・67人の中国の4分の1にとどまる。

 心臓移植で国内トップ級の症例数を持ち、元宜野湾市長の安里猛さん(67)も受け入れた東京大学医学部付属病院心臓外科の小野稔教授は「日本は先進国の中で、最も移植を待つ期間が長い国」と指摘する。

 心臓だけでみても、小型な植え込み型補助人工心臓が進歩。在宅待機が可能になり移植希望登録者が増えたことで、提供件数との差が開いている。今年は9月末までに昨年1年間を上回る56件の移植が行われているが、待機期間は4年程度と長くなり「常に合併症などによる死の恐怖と隣り合わせで生きていかなければならない」と、患者・家族が抱える心身の負担を強調する。

 国内で心臓移植が認められているのは、東大病院のほか国立循環器病研究センターや東北大学病院など8都道府県の10施設に限られる。小野教授は「心臓移植を継続して行うには、関係するトレーニングを心臓外科や循環器内科の医師のみならず、多職種が受ける必要があり、膨大な労力がいる」と説明。「実施病院を増やし、患者の利便性を高められればいいが、心臓移植の実施数が現在の2倍以上、少なくとも年間120例以上に増えることが基本条件になる」とみている。

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 脳死を「人の死」と受け入れにくい死生観や、臓器提供を担う病院側の体制整備が不十分なことも移植の停滞を招いているといわれる。08年に国際移植学会が「自国での臓器移植推進」を宣言した一方で、移植までの時間が待てず、巨額の治療費を寄付で賄うなどして海外に活路を見いだすしかないケースも後を絶たない。

 現状では沖縄の患者は、長期にわたる待機だけでなく、渡航や本土滞在にかかる費用を負って移植を受けざるを得ない苦境が続く。安里さんは心臓移植の患者と家族を支える会「芭(ば)蕉(しょう)の会」の活動を通して目の前の患者支援に取り組むと共に、「これまで高校生や市民向けの集会で命の大切さと移植の果たしたことを語ってきた。これからも広く理解してもらうため努力していきたい」と、自らの立場でできることを模索し続ける。(学芸部・新垣綾子)=おわり