元タレントの田代まさし容疑者(63)が覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで逮捕された。薬物がらみの逮捕は今回で5回目となる。

 薬物依存症のリハビリ施設「ダルク」で働き、自らの体験を講演やメディアで語るなど、順調に回復に向かっているように見えた。依存症からの回復が簡単でないことを再認識させられる。

 ただ薬物依存症者のスリップ(再使用)は回復過程でよく見られることだ。何度もスリップを繰り返した後、薬物使用をやめ、回復している人は少なくない。

 薬物依存症は回復できる病気であることを、田代容疑者には改めて認識してもらいたい。

 依存症は、薬物などの使用をやめようと思ってもやめられない、自分の意志でコントロールできなくなる病気だ。

 生きづらさや不安を一時的に解消する手段として薬物を繰り返し使っていくうち、脳の機能が低下して、欲求をコントロールできなくなっていく。

 依存症は「孤立の病」とも呼ばれる。

 薬物依存症に詳しい精神科医の松本俊彦さんは、健康な人は何か問題を抱えたとき、いろいろな人に相談して解決するが、依存症者は過去の過酷な体験から人への信頼感を失って「人」に依存できず、一時しのぎに「物」に依存すると指摘する。

 だからこそ、つながりを提供し、社会で孤立させない支援が必要だと訴える。

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 近年、「ハームリダクション」(被害を減少させる政策)がヨーロッパを中心に広がっている。

 薬物使用により生じる健康、社会、経済的な悪影響を減少させることを目的としている。

 薬物使用者を刑務所に入れて社会から排除するのではなく、治療プログラムやさまざまな福祉サービスを提供することで居場所をつくり、孤立させない取り組みだ。

 その結果、薬物使用者が減り、治療につながる人が増えるなど、目に見える効果が表れている国もある。

 日本は現在、薬物の使用に厳罰で臨んでいる。違法薬物を使用した場合、刑罰が科される。しかし、覚醒剤事犯の再犯率は66%と高い。

 「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」は、1980年代にテレビで流されたキャッチコピーだ。強烈なネガティブキャンペーンが、依存症が回復する病気であることの周知を妨げた可能性もある。

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 「いろいろな人々に支えられ、身近な人に正直にものを言えるようになったことが一番変わったことだと思う。今、自分は苦しいんだ、つらいんだと言える環境があることが一番大きい」

 覚せい剤取締法違反罪で有罪判決を受け、依存症の治療を続ける、元プロ野球選手の清原和博さんがことし3月、厚生労働省の啓発イベントに登場して語った言葉だ。

 依存症への回復の道が平たんでないからこそ、病気を正しく理解し、応援する社会をつくりたい。