「朝、ホテルのロビーで全国紙を広げたら熊本地震の記事が1行もない。本当に驚いた」。先週、東京の共同通信社であった地方紙が集まる会議で、同席した熊本日日新聞の部長がつぶやいた
▼熊日では連日1面の記事が、東京では消えている。「沖縄の基地と同じ、局地的な問題にされている」。静かな声に怒気がにじんだ
▼被災した熊日の記者は、車に寝泊まりしながら取材に向かった。50~100人規模で現地入りした大手メディアには、マンパワーでかなわない。時に「寄り添う」とは真逆の態度で取材するメディアにも遭遇。「発生から1カ月」を境に、多くが熊本を去った
▼14日で震度7の前震から2カ月。テレビは東京都知事の疑惑、芸能人の不倫話ばかりだ。だが、今も6千人以上が避難生活を強いられる。家で寝るのが怖いと車やテント泊する人も多く、避難の実数はつかめない
▼宜野湾市出身の歌手、宮里新一さん(60)は大規模半壊した熊本市のマンションで、熟睡できない夜を過ごす。12日、八代市で4月19日以来となる震度5の地震があった。「そろそろ鎮まるかなと期待してたけど…。終わりが見えないのがきつい」と語る
▼熊日の部長は言う。「自分たちの問題と考えるなら、少し落ち着いた今こそメディアの力が必要」。今こそ寄り添ってと、大手メディアに呼び掛ける。(磯野直)