その確証が得られないから、日本の外務・防衛閣僚に限らず、総理大臣までもが米大統領らに「尖閣も日米安保の適用範囲ですよね」と何度も念押しするわけです。米国は他国の領土問題に首を突っ込まないことを基本政策としており、当事者間で平和的に解決してください、という立場です。

 尖閣防衛は一義的に日本の責務であることを日米両政府は確認済みですので、政府が繰り返す抑止力とはいったいどこを対象にしているのでしょうか。

 政府は海兵隊がアジア太平洋地域の平和と安全に役立っていると主張しています。ところがその任務を海兵隊がどのように果たしているのかを政府は説明しないので、議論そのものが成立しません。

 米軍再編によって海兵隊は主力部隊をグアムへ撤退させます。沖縄に残る兵力2000人の第31海兵遠征隊(31MEU)が唯一の即応力、機動戦闘力になります。長崎県佐世保に配備されている米海軍強襲揚陸艦に乗ってアジア太平洋を常時巡回しています。1年のうち7~9カ月間、揚陸艦で洋上任務に就き、同盟国を訪ねては共同演習を実施しています。

 沖縄に滞留している時間は限られており、それを日本防衛の抑止力と呼ぶことは理屈が通りません。

 2013年にフィリピンで実施された共同演習に中国軍は司令部要員を初派遣しました。フィリピンと中国は南沙諸島をめぐる領土紛争を抱えています。しかし大規模な自然災害は国家を超えた全人類的な問題であり、そこは手を携えようという考えです。災害を想定した机上演習に中国、ベトナムや豪州、日本、韓国など11カ国が参加しました。アジア地域で近年頻発する大規模災害に各国軍が協力して対処できるシステムを構築する取り組みこそが、アジア地域の安全保障ネットワークを強化するという発想なのです。

 その国際協力体制の中に中国も引き込もうとしています。2014年にタイで実施された米タイ共同演習「コブラゴールド」で中国軍は陸軍兵士を初参加させ、他国軍とともに災害救援や人道支援活動の演習を行っています。

 これが沖縄の海兵隊がアジア地域で行っている安全保障の取り組みです。 中国脅威を引き合いに沖縄に海兵隊を駐留させる必要性を強調する日本政府は海兵隊の任務をまるで理解していないように思えて仕方ありません。海兵隊はほとんど沖縄を留守にし、巡回先では中国軍を招いて共同演習を実施しているのだから、中国脅威論に基づく日本政府の主張は論理が破綻しています。米国が中国を巻き込んでアジア太平洋地域の集団安全保障を模索しているときに日本だけ隣国と仲良くできない。しかも安倍晋三首相は靖国参拝で周辺諸国を刺激し、米政府から「失望した」(disappointed)と強く非難されました。困った同盟国ですね、と米国から見られているかもしれません。

 アジア全域を活動領域にしているのが海兵隊です。その部隊が沖縄の基地がなければお仕事できません、と言うはずもありません。海兵隊の機動展開力は日本政府が考えるほど柔なものではありません。だから政府が主張する「沖縄の地理的優位性」はどうにも理解できない議論なのです。

 日本は個別的自衛権や集団的自衛権で議論沸騰しますが、これはいずれも有事にどうケンカしようか、という技術論です。その議論の中に沖縄の米軍基地をはめ込んでいます。しかし米海兵隊がアジア太平洋で行っているのはケンカを未然防止する集団安全保障です。中国も巻き込んで争いのない地域にしようと海兵隊はアジア太平洋地域を絶えず巡回しているのです。

 仮に米中が対決する事態に沖縄基地はミサイルの格好の餌食になるだろう、と米側の多くの専門家が指摘しています。その時日本は沖縄をどう守ってくれるのでしょうか。70年前の悲劇が想起されます。

 沖縄の民意を無視して基地を提供して、米軍の機嫌をとっていれば、一緒に中国とケンカしてくれるはずだ、という日本政府の本音が訴状から読み取れます。そんな内弁慶では国際社会の尊敬は得られないでしょう。

 この裁判が形式的な審査で終わり、政府の無理な主張が一方的に認められるのであれば、沖縄への構造的差別は永続化する、と危惧します。それは日本の民主主義が破壊されることを意味します。