国内最大のIT企業が誕生する。
検索大手のヤフーを運営するZホールディングス(HD)と無料通信アプリのLINE(ライン)が経営統合することで基本合意した。
米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コム)や中国のアリババグループなど、海外の巨大IT企業へ対抗する狙いがある。
ヤフーとラインは、ネット通販やスマホ決済、会員制交流サイト(SNS)などでそれぞれの強みを生かし、インターネットを通じた幅広いサービスを手掛けている。
合わせた国内の利用者は計1億人を超える。統合の最大のメリットは、こうした顧客データの活用だ。ネット閲覧や通販の購入実績など膨大なデータを蓄積することで、利用者の好みに合わせた商品やサービスを提案できる。
それが利用者にとってメリットになる一方、懸念されるのは個人情報保護の課題だ。
米フェイスブックで個人データが大量に流出したことは記憶に新しい。生活に欠かせなくなったネットだが、自身の情報がどのように使われているかが見えない不安は根強くある。
膨大な個人データを集積する以上、強固なセキュリティー対策が必要となる。個人情報の分析も過度になれば、プライバシーの侵害につながりかねない。
こうした懸念を払拭(ふっしょく)するには、安心・安全で高品質なサービスの提供が不可欠で、これがGAFAに対抗する力となり得るのではないか。
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情報やデータの寡占化への懸念もある。
電子商取引の市場では、巨大IT企業が優位な立場を利用して、取引業者などに不利な契約を結ばせるという事例が報告されている。
デジタル市場で強い支配力を持つ米国の巨大IT企業への規制議論が各国で本格化する中、日本も足並みをそろえた。
政府が内閣官房に設置した「デジタル市場競争会議」では、不当な取引や個人データ利用を抑止するための議論を進めている。
巨大IT企業と中小企業の公正な取引のための新法の制定や、利用者が企業に自身のデータの利用停止を求めることができる保護法の改正なども検討する。
公正取引委員会の独占禁止法に基づく審査もある。
巨大化するデータ市場の「独占」への監視はより強化することが必要だ。
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「世界の第三極になる」。ZHDの川辺健太郎社長は統合会見でこう強調した。GAFAに次ぐ企業となる覚悟がにじむが、米中の巨大企業とは利用者数も企業規模も桁が違う。
通信事業を担う両社は、緊急時や災害時などに不可欠なインフラを担っているといえる。この強みを生かしつつ、社会的課題を意識した企業運営、事業展開をしてほしい。
競争力を高めるには、利用者の権利を守ることを最優先に、安全性と利便性を両立した信頼されるサービスを生み出すことが鍵となろう。