出勤するとすぐに、“指定席”の開店準備を始める。市場には猫が多いが、猫におしっこをかけられると商売にならない。まずは、猫の被害を避けるために、売り場の棚に載せていた段ボールや布を取ることから始まる。ネコだけでなく、ネズミやゴキブリへの対策もする。毎日の開店準備と、閉店後の片づけは欠かすことができない大切な作業だ。


 「片づけてから帰るから、出すのが大変さ」と初子さん。これまで何度、この作業をしてきたのだろう。「3時くらいから人が集まり始めるよ~」と言いながら、ゆっくりと初子さんのペースで開店準備を進める。


 開店準備が終わると、ラジオのスイッチを入れる。聴くのはだいたい、NHKの「ラジオ深夜便」。流れてくるメロディーをBGMに、しばし腰を休める。

 「深夜2時をお知らせします」。ラジオの時報が流れると、それを待っていたかのように初子さんは立ち上がった。店の横にある溝に移動して、パンっ、パンっとかしわ手をして礼をする。ペットボトルに入った水をかけて、再びかしわ手と礼。現在は見ることは出来ないが、その場所には大きな井戸があったようだ。続けて売り場の横にある柱の前に立ち、同じように手を合わせた。

 ラジオからは何やらニュースが聞こえ、遠くから演歌のメロディーも聞こえる。初子さんは静かに手を合わせ続けている。そこには、「土地の神様がいる」と初子さんは言う。

 「『今日もよろしくお願いします。お守りください』って私の気持ちを伝えているんだよ。人それぞれ違うと思うけど、私はこうしているね」。何もないように見えて、神聖な場所。いつものようにお店を開けられることに感謝して、初子さんは今日も祈る。