「ネズミの楽園」で知られる有名な実験がある。二つのグループをつくり、「植民地ネズミ」たちは1匹ずつ狭いおりに閉じ込める。もう一方の「楽園ネズミ」は広場に放す

▼麻薬入りの水と普通の水を用意すると、植民地ネズミは麻薬入りを大量に飲んで酔っぱらう。楽園ネズミは普通の水を選び、仲間と遊ぶ。カナダの大学によるこの実験は、薬物依存症は快楽のためではなく、苦痛に耐えるために生まれると示唆する

▼精神科医の松本俊彦さんは著書「薬物依存症」で、孤独な人が他者に依存できないまま薬物に頼る過程を説明する。回復には刑罰よりも人とのつながりの方が大切だという

▼一方で、社会はひたすら厳罰を求める。芸能人が逮捕されればバッシング報道が過熱する

▼国が「脱法ドラッグ」を「危険ドラッグ」と呼び換えた時、公募で支持を集めたのは「廃人ドラッグ」だった。危険を強調するあまり、薬物依存者を切り捨てる響きがある。線を引き、排除して、安心したい心理がのぞく。本当は酒やたばこも薬物で、依存症は遠くの出来事ではない

▼ネズミの実験には続きがある。麻薬漬けだった植民地ネズミを広場に連れていくと、楽園ネズミと遊び、普通の水を飲むようになった。ネズミ社会は依存者を受け入れ、癒やした。日本社会には同じ力があるだろうか。(阿部岳