人事ジャーナリスト・溝上憲文の「経営者に告ぐ」

[溝上憲文ITmedia]

 政府の働き方改革関連法の大きな柱である同一労働同一賃金の規定を盛り込んだ「パートタイム・有期雇用労働法」が2020年4月の施行までいよいよ半年を切った(中小企業は21年4月)。

 最大の狙いは均等・均衡待遇原則に基づき正社員と非正社員の不合理な待遇差の解消を目指すことにある。非正社員とは有期雇用契約労働者、パートタイム労働者、派遣労働者のことだ。均等待遇とは、働き方が同じであれば同一の待遇にしなさい、均衡待遇とは働き方に違いがあれば、違いに応じてバランスをとって待遇差を解消しなさいということだ。

 しかし、待遇差を解消しようとすれば、これまで低い賃金で使ってきた非正社員の賃金を上げざるを得ない。当然人件費は増える。施行が目前に迫る中で正社員と非正社員の格差をどのようにして埋めるのか多くの企業が対応に苦慮している。日本経済新聞社の大手企業の「社長100人アンケート」(19年9月20日)によると、法制化に向けた対応が「完了した」企業は39.3%にとどまる。また、人件費負担が「増える」「どちらかといえば増える」と答えた企業は46.9%に上る。

同一労働同一賃金に向けて「非正規社員の待遇改善」が必須となる(写真提供:ゲッティイメージズ)

「ダブルコスト」に悲鳴上げる中小経営者 

 中小企業の施行は21年4月だが、すでに悲鳴が上がっている。日本商工会議所と東京商工会議所は10月17日に政府に対し「雇用・労働政策に関する要望」を発表。調査では、同一労働同一賃金について「対応済・対応の目途(めど)がついている」と回答した中小企業は36%にとどまり、48.0%が「内容が分かりづらい」と回答している。その上でこう述べている。

 「日本商工会議所の調査では、コスト増加分の価格転嫁についてBtoC(企業対消費者)、BtoB(企業間)ともに転嫁に難航している中小企業が8割に達している中で、同一労働同一賃金は非正規社員の処遇改善により人件費増につながることから、『原資がなく対応に困っている』といった声も多く聞かれている」

 実際に頭を抱えている企業も多い。パート・アルバイトを含めて1500人の非正社員を抱える飲食チェーンの人事部長はこう語る。

 「今年4月に施行された残業時間の上限規制によってこれまで見過ごされてきたサービス残業も割増賃金を払うようになり、従来以上に人件費が増えました。今度は同一賃金同一労働の法制化で非正社員に支払っていなかったボーナスや諸手当も支給しなければいけなくなります。正社員と同じ手当を払えば、下手をすれば事業の存続にも影響します。今、正社員の賃金体系も含めて全体の制度を見直している最中ですが、それでもかなりの人件費増は避けられません」

 企業にとっては働き方改革関連法の残業時間の上限規制に伴うコスト増と非正社員の処遇改善でダブルコストになる恐れもある。

 では具体的にどういう影響を与えるのか、改めて法律の中身を検証してみよう。正社員と非正社員の間の均等・均衡待遇原則の判断基準となるのが20年4月の法律施行と同時に施行される「同一労働同一賃金ガイドライン」だ。

「不合理な待遇差」を解消するための規定が整備された(厚生労働省リーフレット「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて」より)