「Bom dia! Quando você vem para o Brasil?(ボンジーア!クアンド ボセ ヴィン パラ オ ブラジル?(おはよう!ブラジルにいつ来るの?)」。
 一日を終えて、ようやく眠りにつこうかという時に届いた一通のメール。日本と時差が12時間もあるブラジルのサンバチーム「Águia de Ouro(アギア ジ オウロ)」のメンバーからでした。
 彼女のSNSには、2015年のカーニバルへ向けた練習や各ポジションの発表、任命式の様子がアップされていました。写真には、メンバーたちの真剣な眼差し、笑顔に満ち溢れた表情が収まっています。
 「あー、またあの興奮と感動のカーニバルで踊りたい!」。そんな気持ちが沸き上がる中、初めてのブラジルのカーニバルで、大観衆の前でステップを踏んだ時の気持ちも思い出しました。今でこそ、ブラジルをようやく近くに感じていますが、サンバを始めたころは本当に遠く、憧れのブラジルでのカーニバルの出場は、夢のまた夢のような道のりでした。

 私がサンパウロカーニバルの出場を目指そうと決めたのは2010年。ちょうどサンバダンスを習い始めて1年半が過ぎたころに参加した、沖縄県出身のパーカッショニスト、翁長巳酉さん主宰の「ブラジルサンバ合宿ツアー」がきっかけでした。長年、翁長さんがブラジルで打楽器奏者として所属していた、サンパウロのトップリーグのサンバチーム「Águia de Ouro(アギア ジ オウロ)」のフェスタ(パーティ)への参加がカーニバル出場につながっていきました。

 フェスタには、体育館ほどの広さのあるチームの練習拠点に100人ほどが集まっていました。心地よいリズムの生演奏をバックミュージックに、ブラジルの家庭料理「フェジョアーダ」が振る舞われ、参加者の気の向くままに自由に踊り、楽しむチームのアットホームなパーティ。
 美味しいフェジョアーダを食べ終えて、本格的な踊りが始まるのを楽しみに待っていると、どこから出てきたのかと思うほど、人が2倍、3倍に増えていきました。カップル、私のような国外からの人、幼稚園生ぐらいの小さな子供から、70歳以上のご年配の方まで、幅広い世代の人たちであふれかえっています。

 そして突然。
 「ドドドドドドドド」
 爆音のサンバの演奏が始まるや否や、一斉にサンバステップを踏み始め、心一つに踊り出しました。全く知らない人と顔を見合わせて、互いのステップを見せ合ったり、手を繋いで踊ったり、楽しく陽気に、自由にコミュニケーションをとっています。私はといえば、パーティに来る前に参加していたサンバのレッスンで、全身は筋肉痛な上、納得のいくダンスがなかなか出来ず、落ち込んでいました。でも、生の音にただただ身を委ね、心のままにステップを踏み、腰を揺らし、輪の中に入って踊ってみると、気分がスカッ!と晴れやかに。疲れもイライラも、ネガティブな感情も全て吹き飛ばしてしまうほどのサンバに、元気と活力を取り戻すパワーと、人と人とを繋ぐ力を体感した時でした。

 そしてもう一つ、ブラジルで忘れられない景色がありました。日本からわざわざサンバの勉強に来ている私たちのために、通常、封鎖されているカーニバルの会場が特別に開放され、聖地に足を踏み入れることが出来たのです。会場は長さ 約530メートル、幅14メートルのコンクリートの道で、カーニバル本番では、1チーム3~4千の演者が行進します。両サイドには高い位置からもサンバを観覧できるスタンド席が見渡せます。サンバを始めてから憧れ、日本で何度もYouTubeで見てきたあの場所が目の前にあるのです。
 あまりにもうれしくて、カーニバルダンサーになったつもりで踊ってしまいました。ゴールまで続く真っ直ぐな道。眺めていた時、
 「よし! 必ずこの地に帰ってこよう!」
 「来年が無理でも、コツコツお金をためて、技術を上げて、現地の人たちとカーニバルで踊れるように頑張ろう!」。
 口には出さず、そっとこの言葉を胸の中に留めて、ブラジルでの厳しくも楽しいサンバ合宿を終え、帰国しました。

 それから約1年間、沖縄で、とにかく練習を重ねました。現地で学んだステップの感覚がわからなくなったり、忘れそうになったりしたら、目標のダンサーの動画を探して、繰り返し、繰り返し、見ていきました。自分の体や個性に合った表現、魅せ方、足と腰の運びなども様々なダンサーの動きを比較して研究し、体が覚えるまで何度も何度も練習しました。
 そして2012年、あの時、心に誓ったカーニバルの出場が叶いました。しかも、サンバ合宿で初めて、サンバの楽しさ、魅力を教えてくれた大好きなチームからの出場です。しかも、一生に一度しか出場のチャンスはないであろうと思っていたカーニバル出場でしたが、2014年には二度目の出場を果たすことができ、チーム歴代最高の3位入賞に貢献する事も出来ました。
 カーニバル初出場までの道のりを振り返ると、今年の2015年も愛する仲間と出場したい、すぐにでもブラジルへ、仲間の元へ飛んで行きたい!と、うずうずしてしまうのですが、残念ながら今年は、年始に大事なプロジェクトが入っていたり、資金不足という状況もあったりして、泣く泣く出場を断念。ここはぐっとこらえて、沖縄でコツコツサンバを踊りながら、チーム「Águia de Ouro」を応援したいと思います。もちろん、インターネット越しに優勝トロフィーを拝めることを祈って!