意外と見落とされがちだが、そうした「読書のしやすさ」において〈紙の本〉に勝るものはない。

 実は、小社の既刊本を電子書籍化したいという話も、これまでいくつかいただいている。その多くが、作業にかかる費用に一括交付金等の助成金を活用していたり、採算の取れるビジネスとしてではなく、将来への投資として進めたりしていると聞く。もちろん大きな利益を出している電子書籍マーケットも存在するが、私個人の実感として言うならば、電子書籍とは「たくさんの本で売り場の棚を埋めて、それで初めて数点を選んでもらえる」ビジネスだ。小社の本に対する〈電子化ニーズ〉は、「売り場である電子書籍サイトの棚を埋めたい」というニーズにとどまっていて、「お金を出してボーダーインクの電子書籍を買いたい」という読み手側からの大きなニーズはまだ感じられない。 

 〈紙の本〉と同じだけの数が売れる電子書籍は稀である。その上で、編集作業や販売システムの構築・運営にかかるコストを考えると、ビジネスとしてはどうしても見合わない。
また、地元向けの本であれば一般的に、「シーミー」「国頭」などの固有名詞に必要以上の解説も読み仮名もつけないが、県外の方はすんなりと読めないことも多いだろう。抜本的にはこうした編集方針の違いが存在する。前回書いた「拡散」と「集中」というキーワードで考えてみると、沖縄で沖縄向けに本を作るということは、結果として、売れる地域を「集中」させることにつながっていく。〈紙の本〉だけではなく、世界中で買える電子書籍でも同じことだ。

 「電子化に向く本」というものがあるとすれば、小社の本はそこから外れている。

電子書籍の量産がもたらすもの


 前回、「電子書籍は、既存の〈紙の本〉にならうのではない、あらたな編集の理屈が必要」(https://www.okinawatimes.co.jp/cross/?id=43)と書いたように、「既存の本を電子化する」のと、「新しく電子書籍として発行する」のでは、後者の方に分があると考えている。デジタルデバイスで読むための工夫をこらした本が登場することに、個人的な期待は高い。また、例えば購買者を募って利益を確保してから発刊に踏み切る、いわゆる「オンデマンド電子出版」という形も有効のようだ。

 最近、たいへん興味深い記事を読んだ。全米出版社協会(会員社約1200社)が発表した2013年の書籍総売り上げ(同協会会員社の卸値計上額)のうち、電子書籍の売上シェアはおよそ3割。アメリカは日本とは違って書籍売り上げは微増傾向が続いているというが、そんな状況でも電子書籍は3割でほぼ定着、出版社発行の電子書籍は伸び止まり、個人発行の電子書籍(セルフパブリッシング)が数を増やしている傾向にあるという。「アメリカの電子書籍ブームは終了」ということらしい。

 これはアメリカも日本も共通だろうが、セルフパブリッシングは発行しやすい一方で、本としてのクオリティーが一定に保ちにくい故に、価格も安くて当たり前、高値をつけると途端に売れなくなるというデメリットがある。実際のところ、セルフパブリッシングで大きな利益を生み出している例もごく稀なようだ。

「当たり前」が「当たり前」であるために


 ここから何を学ぶか。出版社も安易な電子書籍を量産することになれば、自分の首を自分で絞めることになるのではないか。

 こうしていろいろと考えていくと、ボーダーインクのような地方・小出版社が、電子書籍を前にしてできることはあまりにも少ない。ごく当たり前すぎる結論だが、「自分たちなりに本作りに向き合っていく」ことだけなのかもしれない。

 ただ、この「当たり前」さえも出版不況の波にのまれてしまわないように、電子書籍だけではなく〈紙の本〉もたくさん売れてほしいのだが。