毎年この季節になると、あの歌が聴きたくなる。そう思える曲が誰しもあるはず

▼晩秋から初冬へと巡りゆく今なら、小泉今日子さんの「木枯らしに抱かれて」をつい口ずさむ。切なげなイントロの旋律は、日ごと寒さが増すこの時期に何とも似合う

▼気象庁は先日、東京に冬の訪れを告げる「木枯らし1号」が吹かなかったと伝えた。昨年に続き2年連続で、1951年の統計開始以来、初めて。もともと東京と近畿に限定して発表されていて、10月半ばから11月末までの間に初めて吹く風速8メートル以上の北風を指す

▼観測史上初と聞くと、気候変動による異常気象かと思いたくなる。けれども、それは、たかだか70年足らずのデータに基づくもの。悠久の時を重ねたこの星の歴史からみれば、ちょっとした揺らぎ程度なのかもしれない

▼「木枯らし」は、平安時代に書かれた紫式部の「源氏物語」にも出てくる。英語に同じ意味を持つ単語はないようで、日本語独特の美意識や繊細さが表れた古くから伝わる描写と言っていいだろう

▼人間が定義した枠内で北風は吹かずとも、季節は移ろう。「木枯らし」の名の通り、街の木々から色づいた葉が次々と舞い散り、冬本番の装いへ衣替えする。各地で初雪の便りも耳にするようになった。そろそろクリスマスソングが聴きたくなってきた。(西江昭吾)