元農林水産事務次官の父親(76)が44歳の長男を殺害した事件で、懲役6年の実刑判決が出た。

 公判ではひきこもりがちだった長男の家庭内暴力の実態も明らかになったが、父親は警察や主治医に相談するなどの対応をとっていなかった。

 外部の支援機関とつながる道はなかったのか。防げる選択肢があったかもしれないと思うと残念な事件である。

 深刻化する中高年のひきこもり問題を社会全体で重く受け止め、当事者も家族も孤立させない支援の仕組みづくりが急がれる。

 内閣府の調査では、自宅に半年以上閉じこもっている40~64歳のひきこもりの人は全国で推計61万人。この調査を基に試算した県内の推計値は約7千人という。

 ひきこもり状態から暴力につながるケースは少なくない。元農水次官の長男殺害事件は、一家庭だけの問題とはいえない。

 ひきこもりの家庭がいかに社会とつながりにくく、長期化すればするほど解決しづらいかも浮き彫りになった。

 公判で父親は相談できなかった理由に「警察沙汰にすれば親子関係が悪くなる」「暴力を受けた精神的ショックで余裕がなかった」などと説明した。問題を抱えながらも世間体や家族のことだからと声を上げられなかった状況が分かる。

 中高年のひきこもりは医療や就労、生活支援など課題は多岐にわたる。適切な支援機関につなげるためにも、相談しやすい環境と実効性ある取り組みが必要だ。

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 厚生労働省は、ひきこもりを中心に介護や困窮などの複合的な問題を抱える家庭の支援体制を強化するため、市町村の窓口を一本化する体制整備を促す方針を固めた。

 沖縄タイムスが実施した市町村アンケートでは、約9割に当たる36市町村が、ひきこもりの相談対応に課題を抱えていることが明らかになった。ひきこもり状態にある人の実態調査は、23市町村が必要性は感じているものの、ノウハウや人員、財政不足などを理由に実施していないと答えた。

 住民に最も近い行政機関の多くが、十分な対応策を持たないことは、孤立のリスクを高めることにつながる。ひきこもりの実態把握ができなければ、適切な支援体制も整えることは難しい。

 既存の支援機関や専門家などと連携し、当事者や家族の声を丁寧に吸い上げる作業をしてほしい。

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 血縁や地域のつながりが希薄化する中、家庭内の問題はより顕在化しづらくなっている。生きづらさの要因も複雑多岐にわたり、ひきこもりの問題は誰もが直面する可能性がある。

 解決には息の長い支援が必要となる。糸口となるのは、同じ悩みを抱える民間の当事者団体の活動だ。同じ目線で悩みを語り、共有する場や存在は当事者だけでなく、親のサポートにもつながる。

 孤立を防ぎ一人一人に寄り添った支援には、行政だけでなく、民間の活動との連携も不可欠だ。