【アクロス沖縄】富士国際旅行社社長 太田正一さん(51)=埼玉県出身

「旅行者にとっても、地元の人にとっても、ウィンウィンな企画を作りたい」と話す太田正一社長=東京・新宿の富士国際旅行社

 沖縄への平和学習旅行を始めて41年。観光地を巡るだけでは感じることができない沖縄の歴史や文化、基地問題で揺れる現実を、ツアー参加者に紹介し続けてきた。「お客さんと地元の方々が触れ合い、共に元気になれるのが旅の良さですから」。そんな思いは、55年前の創業精神から受け継がれている。

 富士国際旅行社の設立は、海外旅行が自由化された1964年。日本で19番目に歴史が長く、資本系列を持たず旅行業を本業とする数少ない専門旅行社の一つだ。

 創業者の柳澤恭雄さん(2007年、98歳で他界)は終戦時、NHKで報道部副部長を務め、8月15日の玉音放送を担当。戦時中、大本営発表に協力した悔恨の念があった。時を経て旅行社をつくる時、「平和な世界、民主的な社会の実現に貢献する」との経営理念を掲げた。国民が自分の目で見て、真実を知る大切さに重きを置いた。

 それもあって、企画される旅行ツアーは、通り一遍の観光地巡りとは一線を画す。例えば、創立55周年を記念した今年11〜12月の沖縄ツアーは、うるま市兼箇段の獅子舞を鑑賞して地元の人と夕食交流会をしたり、石垣島で戦争マラリアを学びつつ八重山芸能を堪能したり、趣向を凝らす。

 「私が入社して26年、沖縄の方々と関わってきて、会社が困難な時も励まされてきた。その恩返しがしたいんです」

 4年前、産経新聞の1面に「辺野古抗議ツアー斡旋(あっせん)」の記事が載った。基地建設の抗議活動への参加者を募集し、違法行為の斡旋などを禁じる旅行業法に抵触する可能性があると報じられた。「抗議するぞ」「中国が攻めてきたら、どうするんだ」。会社の電話は鳴りっぱなし、山のようなファクスが届いた。

 「私たちは現場へお連れするが、座り込みを強制しているわけではない。(抗議へ参加するか)判断するのはお客さんなんです」。結局、所管官庁の観光庁から行政指導されることはなかったが、そんな時に応援してくれたのも沖縄の人たちだった。

 何より心掛けているのは、旅先の地元資本と連携すること。なるべく地元にお金を落とし、旅行客も地域の人々も共に元気になれる体験だ。それこそが息の長い交流につながる。

 旅は文化−。体験がさまざまな気付きを与え、想像力を育てる。「学ぶことの楽しさを会社に教えてもらった」。市民同士の草の根の交流が、平和への一助になると感じている。(東京報道部・西江昭吾)

 【プロフィル】おおた・しょういち 1968年、埼玉県出身。93年、富士国際旅行社入社。2012年、4代目社長に就任。同社は16年、働きやすさを示すホワイト認証第1号を取得。19年11月にコスタリカのロベルト・サモラ弁護士と芸人の松元ヒロさんを招いて創立55周年沖縄ツアーを行った。住所は東京都新宿区新宿2の11の7、宮庭ビル4階。電話03(3357)3377。