目をつぶって耳を澄ます。かつて聞いたあの歌声。質感も申し分ない。曲が進むにつれて、じんわり心に染みる。ここまで自然に再現できるものなのか。琴線に触れさせる人工知能(AI)の力に、うなるしかない

▼没後30年の歌手美空ひばりさんの新曲がCDショップに並ぶ。AIが歌声をよみがえらせた。最新の週間オリコンチャートで16位。いわば架空の歌が売れる時代になった

▼これまで想像もしなかった現象が起きると、AIが人の知能を上回るシンギュラリティー(技術的特異点)は近いのか、と考えたくなるが、国立情報学研究所の新井紀子教授は否定する

▼「AIはコンピューターであり、コンピューターは計算機であり、計算機は計算しかできない。人間の知的活動が全て数式で表現できなければ、AIが人間に取って代わることはない」と著書にある

▼確かに美空さんの新曲は、過去の持ち歌を深層学習(ディープラーニング)したAIの音声合成技術が忠実に再現したもの。学べる材料を人間が整えなければ、何ら成果物を生み出せない

▼AIは神でもなければ、征服者でもなく、むしろ共存していく相棒。使い方次第で悪用もされる。結局、善悪を併せ持つ人間の心が趨勢(すうせい)を左右するということか。デジタルの最先端技術も、最後はアナログな結論に行き着く。(西江昭吾)