拳を振り上げることもなければ、シュプレヒコールも聞こえない。花を手に集まった人たちがかつての性被害を語り、周りが痛みや苦しみを共有する。とても静かなデモである。

 性暴力を許さないとの意思を示す「フラワーデモ」が、4月以降、毎月11日、全国各地で開かれている。県内では8月から那覇市の県民広場で続く。

 父から娘への性暴力など、女性の意に反する性交があったと認めながら、被告を無罪とする判決が相次いだことをきっかけに始まった。

 司法判断に抗議するデモの中で、長く沈黙を強いられてきた被害者たちが心の傷を語るようになったのは自然の流れだ。

 那覇の会場でスピーチした女性は、13歳で被害に遭って以降、親にも友だちにも打ち明けられず、苦しさを抱えたまま大人になったと話した。

 幼いころ痴漢被害に遭った女性は、自分に隙があったのではと考え、フラッシュバックに悩まされたと告白した。

 街頭で声を上げるのは勇気のいることだ。それでも被害をなかったことにはしたくない、未来を変えていきたいとの思いでマイクを握った人が多かった。

 話にじっと耳を傾けていた参加者からは「あなたは悪くない」「よく頑張ったね」などの声があり、被害者の心を癒やした。

 性被害を訴える「#MeToo」運動は、声を上げた人を支え、共に行動する「#WeToo」の動きへと広がりつつある。

■    ■

 日本の#MeTooの「象徴的存在」といえるのが、自らの性暴力被害を告発したジャーナリストの伊藤詩織さんだ。

 伊藤さんは元TBS記者から性暴力を受けたとして訴えた民事訴訟で、今月勝訴している。東京地裁は「酩酊(めいてい)状態で意識がない伊藤さんに合意がないまま性行為に及んだ」と認定し、元記者に330万円の支払いを命じた。

 刑事手続きで元記者は嫌疑不十分で不起訴となっており、控訴を表明。ただ裁判所は伊藤さんの実名での被害公表を「被害者を取り巻く状況を改善しようとし、公共性、公益性がある」と認め、元記者の反訴を棄却している。

 性犯罪や性暴力は、人権を踏みにじる許されない行為である。

 フラワーデモの参加者をはじめ、被害者を勇気づける判断だ。

■    ■

 内閣府の調査によると、女性の7・8%が無理やり性交された経験を持ち、うち約6割がどこにも相談していないと答えるなど、被害を訴えるのは容易なことではない。

 伊藤さんが事件を告発した後、誹謗(ひぼう)中傷にさらされたのは、被害者救済が十分でない社会の現実を突き付けた。

 しかしそれでも沈黙を選ばず、声を発し続けたその行動が、少しずつ社会を変え、被害者を孤立させないという新たな運動を生みだした。

 2019年という年は、女性たちが性暴力に声を上げる分水嶺(れい)になった、と後々語られるだろう。