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金メダルに挑む“最強”師弟 「練習の鬼」喜友名諒が歩む、終わりなき空手道

2021年8月5日 17:34
 東京五輪の空手形で沖縄勢初の金メダルを獲得した喜友名諒選手。恩師の佐久本嗣男さんと歩んできた“最強”師弟の軌跡とは? 2020年1月1日掲載の「TOKYO師弟物語」を再掲します。(年齢・成績は当時のまま)

 稽古が始まると、那覇市泊にある真新しい道場の空気が一変する。劉衛流龍鳳会、佐久本空手アカデミー。中央に立つのは世界選手権、ワールドゲームズなどを合わせ、世界大会7連覇の偉業を達成した佐久本嗣男さん(72)。指導者として、幾多の世界王者を育ててきた第一人者だ。(運動部・我喜屋あかね)

■国際大会負けなし

 弟子の1人に、2020年東京五輪で「全競技を通じて金メダル最有力」と呼ばれる男がいる。喜友名諒、29歳。世界選手権で3連覇を達成し、19年のプレミアリーグ(PL)では出場した6大会を全て優勝。約2年間、国際大会で負けたことがない。昨年12月、PLマドリード大会を終え、東京五輪出場を確実にした。

全日本選手権で8連覇した喜友名諒=2019年12月8日、高崎アリーナ

■2人の出会い

 共に世界の頂点に立ち、高みを目指す2人の出会いは喜友名が沖縄東中3年の頃までさかのぼる。

 5歳の時、少年野球をしながら「かっこいいと思った」と違う流派の道場で空手を始めた。中学2年の全国中学生選手権個人形で初優勝し、団体も制して2冠を達成した。上り調子に見えた直後、流派転向の決断をする。

 きっかけは、佐久本さんや劉衛流龍鳳会の先輩たちの演武を見たことだった。「先生や先輩方の形の気迫がすごかった。自分もあんなふうにやりたい」。目指す場所は、さらに上の世界。飽くなき向上心が喜友名を突き動かした。

■劉衛流の特徴

 多くの世界王者を輩出してきた劉衛流には、他の流派にはない特徴が多くある。一つは攻防一体の形。相手の技を受けながらの蹴り、さらに蹴りながらの貫手と、一つ一つの技に切れ目がない。空手の本質とは生死を懸けた戦い。佐久本さんは「殺し合いである以上、無駄な動きはしない。必要最小限の動作を持って行うべし」と語る。

 これは「一足二拳」の、劉衛流の連続技に通じる。足を踏み出しながら、複数の突きを繰り出す。また、技を仕掛けてきた相手を斜めに踏み出してかわし、連続で突きや蹴りを繰り出す、ジグザグな足裁きも大きな特徴の一つである。佐久本さんが説く「技は湧き出る泉のごとく、よどむことなく変化させていく」との言葉は、劉衛流の本質でもある。

世界選手権で2連覇を飾った佐久本嗣男さん=1986年、オーストラリア(提供)

 喜友名が劉衛流に入門した当初、稽古の間中から道場に流れる殺気に衝撃を受けたという。「まるで命を懸けて稽古をしているようだった」。ぴんと張り詰めた空気の中で行う、眼前に相手を想定した形。佐久本さんが「生死を懸けてやる」と話す通り、形を打つ先輩たちの表情は真剣そのもの。それが楽しかった。

 以前から知っていた佐久本さんを、実際に見た時から「他の人とは違うオーラがある。すごいな」と圧倒された。実際に、世界の頂点に立った先輩たちがいたことも大きかった。「先輩方を見て、中学から世界を意識していた。全部が刺激。一挙手一投足をまねした」。いつの間にか、目標は日本一から世界一へと変わっていた。

■ひたむきな心

 入門したばかりだった中学3年から、佐久本さんにとって喜友名の印象は今も変わらない。「一生懸命で素直な子。練習の鬼で、手抜きをしない」。後輩がだらだらしていたり、トイレが汚かったりすると、ささいなことでも代わりに喜友名が怒られた。だが、佐久本さんと交わした「休んだら稽古に来るなよ」との約束を破ったことは一度もなかった。

■我が子のように指導

 高校では大分国体での5位が最高で、全国優勝の経験はない。「悔しくて悔しくて。でも今考えると、体も技術もまだまだだった」。稽古を終えた後もロープを登るなどして全身を鍛え、鍛錬を怠らなかった。

 「体力がどんどんつくと、爆発的な力が出始めた」と佐久本さん。大学3年時、全日本学生選手権で前回覇者の新馬場一世らを次々と下して優勝。以降も快進撃は続き、不動の地位を確立した。

■師の指導理念

 佐久本さんは常々、自身を慕い、稽古に励むまな弟子たちを「我(わ)が子」と呼ぶ。「喜友名も金城新も上村拓也もみんないい青年たち。かわいいんだ」。共に切磋琢磨(せっさたくま)してきた「我が子」を語る時、鋭い目つきは和らぎ、言葉は自分ごとのように自信をのぞかせる。「本気で指導をしているから、まるで親の立場になったよう」。だからこそ、どの選手も特別扱いはしない。

 1987年の海邦国体。すでに世界を制し、大会ポスターに起用されながら出場できなかった過去がある。当時の悔しさは忘れていない。「こいつらにはあんな思いは絶対にさせたくない」。まな弟子を思うからこその言葉に力がこもった。

■強い信頼関係

休むことなく佐久本嗣男さん(右)の下に通い、稽古に励む喜友名諒=佐久本空手アカデミー

 東京五輪前、国内最後の大会となった昨年12月の全日本選手権で、喜友名は史上最多タイの8連覇を達成した。日頃国際大会で打つ「アーナンダイ」「オーハン」「オーハンダイ」と、得意形を使わずとも日本一の強さを改めて証明した。

 新馬場との決勝、コートに向かう喜友名には絶対の自信があった。「コートの上では佐久本先生との稽古通りの形を打つ」。日々の信頼関係があるからこそ、練習通りの自分が出せるのだ。

 国際大会で、より難易度の高い技に挑むのは喜友名の「劉衛流の形を世界に広めたい」との信念から。尊敬する師から受け継いだ、誇りを持つ形を全世界にアピールするには、東京五輪は格好の舞台でもある。

 佐久本さんは自身が果たせなかった世界選手権4連覇、五輪の夢を喜友名に託しながら「終わりがないからこそ面白い。まだまだ未完成。もっと上手になる」と太鼓判を押す。

 いわく、形の習熟度を上から「芸」「術」「鍛錬」と表現するとき、「喜友名は5段階で分けたときは『術』の2くらい。僕も『芸』のエリアに時々上がるけど、聖地には踏み込めないね」と表情を緩ませる。師弟で歩む空手の道に、終わりはない。

▶喜友名選手の記事一覧

▶【年表】師弟の主な歩み

 
 

喜友名諒のこれまでの歩みを特設サイトで紹介中 形の解説動画も

「喜友名諒 頂への道」


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