◆学校のサポート
重度知的障がいのある澤田健太さん(26)=大阪市旭区=にとって、公立の普通高校に入ったことが人生の大きな節目になった。「友達の力はすごい。社会が広がり、急に大人になった」と母親の美枝さん(55)はうれしそうに振り返る。
健太さんが入学したのは、大阪市立桜宮高校普通科の知的障がい生徒自立支援コース。知的障がいのある生徒が普通高校で学ぶための課程で、府内では府立・市立の計11校で同様のコースがある。普通学級にいながら、一人一人の障がいに応じて学習目標や計画を作り評価する。
健太さんには教員が常に付き添い、学習と生活面をサポート。一般生徒と同じ教育課程を受け、板書など対応が難しい時間帯には、教員が事前に用意した課題でコミュニケーション能力を高める練習などをした。
当初、健太さんは教室の掃除当番をさせられたことがなかった。ところが職場体験先の馬小屋で掃除ができるのを担任が気付き、「健太できるんや」「健太にもさせなあかん」となったという。次第に当番の日には、自分からほうきを取りに行くようになった。
◆心配した遠足も…
美枝さんがずっと心配だったのは、卒業遠足だ。健太さんは遊園地のアトラクションが苦手で、着ぐるみのキャラクターも怖がる。行き先がユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)だと知り、年間パスポートを買って何度も出掛け、慣れてもらおうとした。
しかし遠足の1週間前になっても、健太さんは乗り物に乗ると青ざめてしまう。気が気でないまま遠足に送り出したが、帰ってきた先生が興奮気味に教えてくれた。「健太、全部乗れましたよ! 友達と一緒に」。美枝さんは、胸がいっぱいになった。
◆先輩に初恋
高校での体験がステップとなり、健太さんは四天王寺大学の科目履修生にもなることができた。そこで、通学サポートをしてくれる大好きな女子の先輩に出会う。
ある日、足元に少しふらつきのある健太さんのため、先輩が電車の座席を確保してくれた。それまでジェスチャーなどで感謝を伝えてきた健太さんだが、この時に生まれて初めての言葉となる「ありがとう」を口にしたという。
「恋した先輩に、どうしても言葉で伝えたかったんだろう」と美枝さん。「人生で一番楽しく、成長する時期が高校や大学。だからこそ、障がい者が普通学校で一般の生徒たちと共に学ぶ機会が広がってほしい」。障がい者が成長し、人生の思い出をつくる機会になると信じている。(社会部・徐潮)
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大阪府は20年ほど前から、障がいの有無にかかわらず、入学を希望する生徒は公立の普通高校で受け入れている。一方、沖縄では、重度知的障がいのある生徒を県立の普通高校で受け入れることには消極的だ。重度知的障がい者の仲村伊織さん(17)=北中城村=が今春、3度目の県立高校入試に挑むのを前に、先進地・大阪の取り組みをリポートする。