社説

社説 [新型肺炎と改憲] 節操なさすぎるのでは

2020年2月2日 09:18

 国民の不安に乗じた発言で不謹慎というほかない。発言を撤回し猛省を促したい。

 中国湖北省武漢市で発生し感染拡大が続いている新型コロナウイルスによる肺炎に絡み、伊吹文明元衆院議長が憲法改正案の緊急事態条項の新設に結び付けた発言をした。

 共同通信の配信によると、1月30日の党会合で「緊急事態に個人の権限をどう制限するか。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」などと言及した。

 改憲しないと対策ができないというのはまやかしである。国民の危機感を利用して憲法改正を持ち出すのはとうてい看過できない。

 国民の生命・健康を「実験台」と呼んだのも極めて不適切と言わざるを得ない。

 政府は1日、新型コロナウイルスによる肺炎などの病気を感染症法の「指定感染症」と検疫法上の「検疫感染症」とするための政令を前倒しして施行した。

 感染拡大を防ぐために患者を強制的に入院させたり、就業を制限したりできる。

 空港や港の検疫では、感染が疑われる人が見つかれば検査や診察を指示できる。感染が確認されれば受け入れ態勢が整った感染症指定医療機関に入院するよう勧告できる。従わなければ強制的に入院させることができる。

 政府は入国申請時から14日以内に中国湖北省に滞在歴がある外国人の入国を拒否する措置も取る。入管難民法5条に基づく異例の対応である。

 現行法で新型肺炎の拡大を抑えるための対策は取れるのである。どさくさに紛れた伊吹氏の発言は悪質である。

■    ■

 閣僚を含む自民党議員、日本維新の会からも同じ考えが出ている。「憲法に緊急事態条項があれば! 一部野党も逃げずに憲法改正の議論をすべき」などとツイートした自民党議員もいた。公明党は反発している。

 新型肺炎と憲法改正は何も関係がない。既存の法律の運用の問題なのである。

 自民党が掲げる改憲4項目の一つが緊急事態条項だ。「外部からの武力攻撃」「内乱等による社会秩序の混乱」「地震等による大規模な自然災害」などが発生した場合、首相は緊急事態を宣言することができるというものだ。

 宣言すると内閣は法律と同じ効力を持つ政令を制定、地方自治体の長に指示することができる。国民は国や公の機関に従わなければならない。

 国会のコントロールを排除し権力を内閣に集中させる。三権分立を否定し、基本的人権を制限する危険な条項だ。

■    ■

 安倍晋三首相は最近、「私の手で改憲を成し遂げたい」と前のめりの姿勢が際立っている。憲法の発議権は首相にはないにもかかわらずである。伊吹氏の発言は改憲論議を進めたい狙いがあったはずである。背景にはチャーター機で帰国した1便の206人のうち、ウイルス検査に2人が応じなかったことがあったのかもしれない。しかし2人は後に検査を受けている。

 国内では症状がない人の感染が確認されている。今やるべきなのは感染拡大に備えた医療態勢の強化である。

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