「30分後に来て下さい」。前田鶏卵社長の前田睦己さん(67)は約20年前、大手スーパーの仕入れ担当者に取引価格の引き下げを通告された。「のめなければ取引しません」。年商5億円の2割を占める得意先。影響は甚大だ。のめばどうなるか

▼社用車を売り払い、社員の2割を解雇する必要があった。首を縦に振れない。「どの小売店とも自由に取引するチャンス」と切り替えた。大手依存から脱却し、2年後の年商を6億円へ引き上げた。「決断は正しかった」と振り返る

▼本紙経済面の連載「中小企業のチカラ」も、危機を乗り越えた軌跡を伝える。琉球補聴器社長の森山賢さん(47)が社員から猛批判を浴び、土下座でわびた話を紹介した

▼記事を読んだ経営者仲間から「よくあそこまで話したね」と驚かれたそうだ。屈辱的なエピソードを、なぜ率直に語ったのだろうか

▼森山さんは失敗談こそ、他者が共感すると考える。「順調に見える企業も、水面下でもがいている。『いま苦しくても大丈夫ですよ』と伝え、沖縄の企業に前を向いてほしい」

▼社員の喜屋武奈緒子さん(38)は、土下座を機に「怖くて近寄りがたかった社長が歩み寄り、信頼してくれている」。顔色をうかがうことなく、接客に集中できる。トップが変われば社員が応える。小さな所帯それぞれに、伝えたい魅力がある。(吉田央)