社説

社説[検事長の定年延長]中立揺るがす官邸介入

2020年2月13日 07:45

 検察の独立性や中立性を侵しかねない定年延長であり、政治介入というほかない。

 政府は黒川弘務東京高検検事長の定年を国家公務員法(国公法)に基づき半年間延長する閣議決定をした。前例がなく、異例の決定である。

 検察庁法は、検事総長の定年を65歳、検事総長以外の検察官は63歳と定めている。延長の規定はない。

 黒川氏は誕生日前日の2月7日に定年を迎えるはずだった。直前の閣議決定で8月7日まで延長することを決めた。稲田伸夫検事総長の後任への道が開かれたのである。

 安倍晋三首相は「法務省の人事だ」とするが、官邸の力が働いたのは、法務・検察幹部の多くが閣議決定後に知ったことからもうかがえる。

 定年延長について政府が国公法を根拠とすることに正当性はあるのだろうか。

 衆院予算委員会で立憲民主党の山尾志桜里氏が過去の政府答弁を引き合いに出し、矛盾を指摘した。国公法改正案を審議した1981年の衆院内閣委員会で人事院幹部は「検察官と大学教員は既に定年が定められ、今回の定年制は適用されない」と答弁しているからだ。森雅子法相は「国公法の規定が適用される」と繰り返し、正面から答えることができなかった。

 検察庁法のように法律に別段の定めがある場合は、国公法の定年制度の対象にならないと解釈するのが一般的だ。政府が国公法に基づき定年延長を決めたのは、法的にも疑問符が付くのである。

■    ■

 検察に独立性や中立性が求められるのは、過去に元首相を逮捕したロッキード事件や、リクルート事件からもわかるように政界や官界の犯罪に切り込むことが少なくないからだ。

 過去の政権は、捜査を批判することがあっても人事に口を挟むことはなかった。政治とは厳格に一線を画しなければならない検察トップに安倍政権とつながりの深い人物が就任すればどうなるか。

 黒川氏は捜査現場よりも法務行政の経験が長い。首相官邸の信頼が厚いとされる。

 これでは捜査の在り方が、政権の影響を受けることになる懸念が拭えない。

 検察は「法の番人」ともいわれる。法務・検察が政治の人事介入を許せば、検察の存在意義そのものが問われるだろう。検察に対する国民の信頼も失われるに違いない。検察は定年延長問題が組織の存続に関わるものと深刻に受け止めなければならない。

■    ■

 安倍首相はこれまでも「禁じ手」といわれる人事を続けてきた。「憲法の番人」といわれる内閣法制局長官に集団的自衛権行使を容認する外務省出身者を起用して憲法解釈を変更した。最高裁判事にも日本弁護士連合会が推薦するリストにない、政権に近い人物を選んだ。

 NHK会長人事もしかりである。政治的中立性が求められるポストに「お友達」を登用してきた。官僚も内閣人事局の発足によって官邸に牛耳られ、「忖度(そんたく)」がはびこるばかりである。日本の統治機構の危機ではないか、と憂慮せざるを得ない。

 
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