木村草太の憲法の新手

[木村草太の憲法の新手](122)検察官の人事、定年延長決定 違法の疑い 内閣監督権、適切行使を

2020年2月16日 11:00有料

 1月31日、東京高検の黒川弘務検事長の定年延長が閣議決定された。検事長とは、全国に八つある高等検察庁の長だ。検察庁法22条は「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」と定める。黒川検事長は、誕生日の2月8日に退官予定だったが、閣議決定により、8月まで定年が延長された。この決定は、異例かつ違法の疑いが強く、批判を浴びている。

 第一の問題は、決定理由の不可解さだ。森雅子法相は、1月31日の記者会見で、「検察庁の業務遂行上の必要」と説明した。確かに、カルロス・ゴーン氏の事件やIR汚職問題など、東京高検は重大事件を抱えている。しかし、高等検察庁は、ほとんど常に重大事件を扱っており、今回に限って例外的扱いをすることに、説得力はない。

 実質的な理由は、黒川氏を検事総長に登用したいとの官邸の意向とも言われる。しかし、検察庁人事は、政治からの独立性が求められるものであり、そのような理由で人事に介入することはそもそも許されない。

 第二の問題は、決定の適法性だ。政府は、特別法たる検察庁法に検察官の定年延長規定がないため、一般法たる国家公務員法81条ノ3を適用し、職務の特殊性・特別事情がある場合には、1年以内の定年延長ができると言う。

 しかし、検察庁法に定年延長の規定がないのは、それを認めない趣旨だからだろう。国家公務員法81条ノ3は、本条の適用対象を、「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」に限定している。この規定を、国家公務員法ではなく、検察庁法に基づき退職する検察官に適用するのは、法文上、無理がある。

 実際、国家公務員法の定年規定の審議をした1981年4月28日の衆議院内閣委員会で、斧誠之助人事院事務総局任用局長は「検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められており」、国家公務員法の「定年制は適用されない」と述べている。この点は2月10日の衆議院予算委員会で、山尾志桜里議員が指摘した。

 以上の通り、今回の閣議決定は、違法の疑いが強い。

 検察官は、検事総長を頂点とした指揮命令系統に服する。もしも、検事正が違法な決定に基づき勤務することになれば、それに指揮された捜査や公訴提起にも疑義が生じる。東京高裁に係属する刑事訴訟で、被告人が次々に検察官の職務遂行の違法性を主張する事態も考えられる。その主張の妥当性はともかく、検察実務に与えるリスクは大きい。検事正の定年を延長したいなら、検察庁法の改正を提案し、国会の判断を仰ぐべきだった。

 これまでも、安倍内閣は、安保法制の審議に向けて、内閣法制局勤務経験のない外交官を突然、長官に据えたり、森友問題で不適切な答弁を行った佐川宣寿氏を国税庁長官に抜てきしたりと、疑義のある人事を行ってきた。

 憲法は、内閣に、官僚を指揮監督する権限を与えると同時に、それを適切に行使する責任を課す。内閣は過去の人事権行使を反省し、今回こそは、適切な公務員人事の責任を果たすべきだろう。(首都大学東京教授、憲法学者)

【関連記事】

[木村草太の憲法の新手](123)さらに明らかになってきた東京高検検事長の定年延長の問題点 解釈内容と決定に違法性

[木村草太の憲法の新手](126)検察官定年延長の法改正 解釈変更は条文上不可能
 

前の記事へ 次の記事へ
連載・コラム
きょうのお天気
アクセスランキング
ニュース 解説・コラム
24時間 1週間