[中小企業のチカラ 経営革新の現場]マエダ電気工事(上)

炭関連商品の専門店を開いた当時の真栄田一郎社長=2009年・那覇市壷川

 街灯のメンテナンスなどを手掛けるマエダ電気工事(那覇市)。2代目の真栄田一郎社長(52)には、本業とは無縁の炭販売事業で大失敗した苦い経験がある。

 電気の知識も持たずに、22歳で入社。その約2年後に専務に昇格したが、年上ばかりの技術屋集団の信頼を得るのは容易ではなかった。

 コミュニケーションがうまく取れず、「社員と向き合うのが怖い」とすら感じるように。距離は広がる一方で、退職者が続出。15人ほどいた社員は一時、3分の1の5人にまで減った。

 それでも「絶対に見返してやるぞ」と張り切り、独自路線に走ったが、あえなく失敗。「やることすべてうまくいかず、毎晩、明け方まで酒を飲んだ。だらしなかった」

■起死回生を狙った投資 大幅の赤字

 本業をおろそかにするつもりはなかった。ただ、専門知識もなく、工事を積算して見積書を作成することができなかった。同業他社に頭を下げ、見積もりを依頼してもらうこともしばしば。廃業した会社の工事部長も勧誘し、何とか食いつないでいた。

 創業者で父の故真栄田世行氏には31歳のころ、「君がやりなさい」とだけ告げられ、金庫の鍵を投げ渡されたという。あっけない事業承継だったが、当時、ある研修で書いた「私の契約」と題した紙に、「オヤジを超えます」と記している。2代目として焦る気持ちが、知人をつてに知った炭の事業に向かわせた。

 先輩経営者らは反対したが、「僕には電気の知識もない。もう一つの柱として、起死回生を狙うんだ」と逆に燃えた。室内の湿気を調節する効果がある竹炭調湿材の取り付け工事を始め、自ら住宅の床下を這いずりまわった。 

 顔が真っ黒になるほどに働くとなぜか満足し、翌年には炭関連製品を扱う専門店も開店。しかし、相次ぐ投資で1700万円の赤字を出した。

■頭ごなしの社長 社員の言い分聞く姿勢に

 賞与も出なくなり、社員の不満は怒りに変わっていた。2009年、人材育成セミナー講師の勧めで初めて開いた宿泊研修で、真栄田社長は社員から猛烈な批判を浴びた。

 「炭の事業など、成功するはずがないでしょう」「いつも二日酔いしてますよね」「社長のこと嫌いです」

 「この野郎」。最初は頭にきた真栄田社長だったが、批判が1時間にも及ぶと「申し訳ない。本業に徹するから許してくれ」と泣いてわびた。

 「あれがうちの会社の転機」と話すのは、かつて口説かれて入社した徳盛修工事部長(62)。「社員の言い分を聞く前から『お客さんがこう言ってる』と頭ごなしだった社長の主語が、『あなたはどう思う』に変わり、会社の空気が良くなっていった」(政経部・島袋晋作)

 【企業データ】1963年9月、マエダ電気工業を創立。国道に並ぶ街灯の維持工事などの電気工事サービス業のほか、商業施設などの高圧受変電設備の保守管理サービス、電設資材の卸売業も手掛ける。2019年6月期の売上高は約6億1千万円。従業員数は34人。