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[木村草太の憲法の新手](123)さらに明らかになってきた東京高検検事長の定年延長の問題点 解釈内容と決定に違法性

2020年3月1日 14:34

 国会審議を通じて、黒川弘務・東京高検検事長の定年延長の問題点が、さらに明らかになってきた。先週に続いて、検討したい。

 まず重要なのは、小西洋之参院議員が入手した旧総理府作成の「想定問答集」だ。これは、国家公務員法(国公法)改正案審議に向け、1980年に作成された。そこでは、延長規定を含め、国公法の定年規定は検察官に適用されないとされている。この理解は、81年の人事院答弁とも一致する。

 では、政府・人事院は、いつ解釈を変更したのか。

 まず、人事院は、2月12日、「現在まで」同じ解釈だと答弁した。しかし、そうだとすれば、1月31日の定年延長決定は違法となってしまう。この点が追及されると、人事院は、2月12日答弁の「現在まで」とは、法務省から相談のあった「1月22日まで」の「言い間違い」と修正した。不自然極まる答弁だ。

 他方、森雅子法相は、過去の政府・人事院の解釈を把握したのは、人事院と相談した時とする一方で、それ以前の「1月17日から21日ごろ」に内閣法制局と解釈変更について協議したと言う。しかし、2月26日、予算委員会で玉木雄一郎衆院議員が指摘した通り、従来の解釈を知らずに解釈変更を協議するとは、辻褄(つじつま)が合わないのではないか。

 さらに、文書の扱いも杜撰(ずさん)だ。2月20日、法務省は、「人事院に問い合わせた上で定年延長を妥当と判断した」趣旨の文書を国会に提出した。しかし、提出当初、この文書には、問い合わせの日付が入っていなかった。さらに、法相はこの文書の決裁は口頭で済ませたとしている。

 以上のような支離滅裂な答弁からすると、解釈変更の手続きなしに、定年延長決定がなされたのではないかと疑われるのもやむを得ない。こうした手続きの杜撰さは、多くのメディアも批判するところだ。

 ただ、ここで、改めて強調したい点が一つある。

 前回指摘したように、検察官は、検察庁法22条を根拠に定年退職する。他方、国公法81条ノ3は、定年延長できるケースを、「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」に限定している。「検察庁法」が国家公務員法の「前条第一項」に当たるはずはなく、検察官に定年延長規定が適用されないのは、条文上、明らかではないか。

 結局のところ、政府は、法文から読みとれないことを「解釈」だと言い張っているだけだ。だとすれば、今回の「解釈変更」は、仮に、日付に矛盾がなく、文書で決裁されていたとしても、許されるはずがなく、違法だ。

 現在、メディアでは手続きの杜撰さばかりに注目が集まっているが、解釈の内容と決定の違法性こそを、より強く批判すべきだろう。

 検事長任用が違法無効な場合、その者に指揮された東京高検の業務一般に違法の疑いが生じる。これは、あまりに深刻な事態だ。黒川氏が、定年を延長しないと「公務の運営に著しい支障が生ずる」ほどに優秀な法律家であるなら、以上説明したことはとうに承知のはずだ。黒川氏は、できるだけ早く、辞表ないし定年延長無効確認届を出すべきだ。(首都大学東京教授、憲法学者)

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