社説

社説[福島原発事故9年]復興五輪というけれど

2020年3月10日 07:00

 東京電力福島第1原発事故から2年半後、五輪誘致の会合で汚染水に懸念が示された際、安倍晋三首相は「状況はコントロールされている」とアピールした。

 「復興五輪」の理念の下、東京五輪の聖火リレーは今月26日、福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」からスタートする。

 本当に状況はコントロールされ、復興は進んでいるのか。

 東日本大震災による地震と津波で第1原発は、原子炉6基のうち1~5号機で全交流電源を喪失、運転中の1~3号機で炉心溶融(メルトダウン)が起きた。

 水素爆発で原子炉建屋が吹き飛び、空高く上がる煙の映像に、背筋が凍る思いがしたことを覚えている。事故の深刻度はチェルノブイリ原発事故と並ぶ史上最悪の「レベル7」とされた。

 原発事故により、国は福島県内の11市町村にまたがる区域に避難指示を出した。

 避難指示は徐々に解除されていったが、第1原発が立地する双葉町の一部で解除されたのは、今月に入ってから。ただ人が住めるようになるのは2年後で、長期避難で失われた時間は地域復興に暗い影を落とす。

 既に避難指示が解除された10市町村を見ても、解除時期が遅いほど戻る人が少ない傾向にある。双葉町が実施した意向調査で、帰還の意思を示した住民は約1割にとどまった。

 復興五輪という言葉に距離を感じるのは、失われた時間があまりにも長いからだ。

■    ■

 第1原発では、原子炉建屋に地下水や雨水が入り、溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れて汚染水が発生し続けている。その処理水は敷地内のタンク約千基に約118万トン保管されている。タンク増設の余地はほぼなく、2022年夏には満杯になるとされる。

 先月、処理水の処分を議論してき政府小委員会が、海洋放出の優位性を示す提言をまとめた。政治決断を促す内容だが、放出となれば事故の風評被害に上乗せされる形で影響が出る恐れがある。

 廃炉作業の最難関とされるデブリ取り出しは21年以降、2号機から始まる予定だ。とはいえ全て取り出せるかは分からず、保管場所も決まっていない。

 政府は第1原発の廃炉時期を事故を起点に「30~40年後」としている。廃炉の工程はミスやトラブルでずれ込み、実現性には疑念を抱く。

■    ■

 原発事故からあすで9年。今なお4万人余が避難生活を強いられている。

 故郷や日常を奪われた怒りをどこにぶつければいいのか。

 事故を受けて、国会が設けた調査委員会は「自然災害ではなく明らかに人災だった」との報告書をまとめた。だが東電の旧経営陣は、誰一人刑事責任を問われていない。

 企業責任はもちろん、国策として原子力事業を推進してきた政府の責任をあいまいにし、前へ進もうとしていることに根強い不信感がある。教訓も課題も置き去りにされたままだ。

 
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