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新型コロナで京都・訪日客消滅――“人よりサルが多い”非常事態に迫る

2020年3月15日 08:00

京都在住の社会学者が迫真ルポ

[中井治郎ITmedia]

 「お客さん? 減ってる減ってる」

 本音が見えにくいといわれる京都人だが、本当に言いたいことがある時は大事なことを2度繰り返す。

 「これでも減ってるんですか?」「だって歩けますでしょ?」

35年ぶりの「歩きやすい京都」

 割烹着にマスク姿の「錦のおばちゃん」は、そう言いながらちりめん山椒を包んでくれた。京都の台所として有名な錦市場(京都市中京区)。閑散とした…というほどでもなく、そぞろ歩く人の姿はあり、賑わっているようにも見える。しかし、確かに歩ける。

 近年はインスタ映えのする商品を並べる商店も増え、普段ならば狭い通りを観光客が埋めつくし、ゆっくり買い物をするどころか「歩くのも大変」な錦市場。それが、いまは「すいすい歩ける」のである。

新型コロナの影響で訪日客が消えた京都。これは「今こそおこしやす」と危機を逆手にとった『スイてます嵐山』キャンペーン(筆者提供)

 今や世界を襲う新型コロナウイルスの感染拡大の影響は観光都市・京都においても深刻である。オーバーツーリズムが問題となるほどの混雑に悩まされてきた人気の観光スポットや世界遺産をはじめとした神社仏閣にも人はまばら。もちろん、慢性的な行列と車内混雑で「並んでも乗れない。乗ったら降りられない」と有名だった市バスや市営地下鉄にも影響は出ている。京都市交通局の発表などでは、2月の、市バス・市営地下鉄の1日あたりの平均乗客数はおよそ5万5千人の減少ということである。

本記事の著者・中井治郎氏は京都在住の社会学者。1977年、大阪府生まれ。龍谷大学大学院博士課程修了。今は同大学などで教鞭をとる。専攻は観光社会学。主な著書に、許容量を超える観光客の殺到で苦しむ京都の「オーバーツーリズム」を分析した『パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市』(星海社新書)。

 とにかく京都は、いまどこも空いているのだ。「こんなに歩きやすい京都ははじめて」。多くの人ははじめて目にする京都の異様な光景に驚く。しかし、昔を知っている人は口をそろえて、こう言う。

 「こんなん、古都税のとき以来やわ」

 古都税とは、かつて京都市の創設した地方税・古都保存協力税のことである。観光客の拝観に対して課税し、その徴収を寺社に担わせるという、この古都税を巡って京都市と京都の寺社が激しく対立。「古都税騒動」を巻き起こした。そして京都を代表する寺社の数々が抗議のために、1985年から86年にかけて3度にわたって拝観者に対して門戸を閉ざしたのである。

 海外では「テンプル・ストライキ」とも報道されたというこの運動により、修学旅行生をはじめ、京都を訪れる観光客数が激減。人々は観光客の姿が消えた京都の街を目の当たりにすることになった。

 それから35年。再び京都の街から観光客が消えた。しかし、令和の京都から観光客の姿を奪ったのは古都に暮らす人々同士の争いではなく、海の向こうからやってきた「疫病」だった。いま、日本を代表する観光都市・京都で何が起こっているのだろうか?

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