[子牛産地の危機 久米島血統不一致](上) 

DNA検査の結果を待つ「安福久」の血統の牛=19日、久米島町内

「牛の血統違いが起きている。人工交配を手掛けた彼は大変なことになるかもよ」

 昨年夏ごろ、すでに島内の人工授精師の間では、優良種雄牛「安福久(やすふくひさ)」の血統不一致問題を起こした授精師の男性(48)のうわさが広がっていた。

 しかし、その時点で誰一人として、原因究明に動く島民はいなかった。その結果、同一発情期間中に異なる精液を種付けしてはならないとする規則に違反した人工交配が繰り返された。畜産団体も事実を隠し、子牛産地のイメージが大きく損なわれた。

 「何も話すことはない」。問題が明るみに出てもなお、当事者である久米島和牛改良組合の翁長学組合長は、語気を荒らげて取材を拒み続けた。

 男性と付き合いのある別の授精師は「昨年から授精師組合も把握していた。最初からしっかりと聞き取りや指導をしていればよかった。結果的に問題の授精師は最近まで仕事を続けていた」と話す。

 問題を起こした授精師は、大半の農家の仕事を請け負っていたといい、「一つ一つの記録管理が行き届いていなかったのでは」と推測した。農家の依頼を次々と受け、どの血統の牛の精液をいつ、どの牛の人工授精で使ったか、分からなくなる恐れがあった。

 授精師本人がどれだけ確実に記録していても、血統不一致が起きる危険性はまだある。「妊娠していることに気づかず別の授精師が再度種付けしたことで、実際とは異なる血統で記録され、不一致が出てしまう可能性もあると思う」と実情を明かす。

 島独特の慣習や一部の授精師に申し込みが集中していた状況など、不一致が起きる懸念はいくつもあった。しかし「狭い島で畜産関係はみんな顔見知り。声を上げれば問題を大きくしたとしてやり玉にあげられる」とため息をついた。

 実際、報道により問題が公になった直後の農家説明会でも、問題を起こした授精師やJA、組合の対応を批判する声は上がらなかった。問題の授精師によく仕事を頼んでいたという繁殖農家の男性は「世話になっていた人も多く、複雑な気持ちを抱えている」と話す。

 DNA検査の結果待ちをしている別の繁殖農家の男性は「大事にならないよう納めたいと考えた人の方が多かったということだ。結果的に、出荷できない牛が多く出てしまった」と省みる。「事なかれ主義を見直して本当の意味での信頼回復に努めないといけない」と話した。

 (南部報道部・松田麗香)

 久米島の家畜競り市場から出荷された牛で血統の不一致が相次いで発覚した。島の人工授精師が本来の規定に反する種付けをしていたことが原因だ。昨年6月の発生以降、不一致が次々と明らかになっても久米島和牛改良組合やJAおきなわ、県は公表しなかった。なぜ違反は黙認されたのか。授精師の管理体制はどうなっているのか。子牛産地としての信頼は回復できるのか。現状を探った。